SEASON2

STORY #4

#4 RACE

宿敵(ライバル)

  • 栗早家鷹
  • 凪庵

翌日に東川高校との練習試合を控え、練習を終えたボートレース部。

今のメンバーで行う初めての他校とのレース。翌日に備え今日は早めに練習を終えることになった。

「それじゃ皆さん、今日は明日に備えてここまでにしましょう。」

「お疲れさまでしたー。」

いこのが部活の終了を告げると、とあを除いた5人は、それぞれ帰り支度を始める。

「とあちゃん帰らないの?」

「私はもう少し整備をしてから帰る。」

昨日に続き、とあの表情は暗い。

「おーい!こむぎ~、帰るぞー!帰りに何か食べて帰ろうぜー。」

ガレージの外からふたばが声をかける。

「ふたば先輩。でも、とあちゃんが…。」

「じゃあ、先行ってるぞ!」

少し不機嫌になったふたばはナツとともにピットを去る。昨日の一件以来、とあとふたばの関係はギクシャクしたままだ。

「悪い…こむぎ、少し一人にしてくれ。」

「とあちゃん…」

翌日、試合の日。東川高校が海月女子学園にやってきた。相手は2軍の5人とエースと名高い2年が1人。

そのエースの名は彩峰はづき。小麦色に焼けた肌に抜群のプロポーションの持ち主で高校女子ボートレース界で人気の女子選手だ。

風守は相手の顧問との打ち合わせを終え、彩峰を横目でチラチラ見つつボートレース部のもとに近づいてきた。

「先生、見すぎです。ああいう子がタイプなんですか?」

いこのが、呆れながら風守に尋ねる。

「誤解すんなよ。ビッチくせぇ。ああいうタイプは俺の天敵なの。で、あの子何者?」

「知らないんですか!?彩峰さんは高校女子ボートレース界でトップクラスの人気を誇る天才レーサーですよ!スタイルいいなぁ。」

こむぎが羨望の眼差しを彩峰に向けながら、風守に説明した。

「へえ、あのギャルがねぇ。ま、いいや。とりあえず1年と2年で別れてレース組むことになったから、あとよろしく。」

練習試合は2レース行うことになり、1レース目はこむぎ、けやき、ナツの3人、2レース目は、とあ、ふたば、いこので編成された。

1レース目、こむぎ達のレースだ。けやきが3コース、ナツが5コース、こむぎは6コースまで外に出されてしまう。

ダントツでいいスタートを切ったのは、予想通りけやきだ。

そのまま、他の誰よりも早く1ターンマークを旋回した。

「けやきちゃんも凄いけど、東川の3人も凄い!食らいつくだけで精いっぱいだよ。」

「これで2軍のメンバーなのですか!?嘘でしょ?」

対するこむぎとナツは、四苦八苦しながら東川高校と競り合っていた。

けやきの後続は、ほぼ団子状態。

こむぎは大きく捲り、ナツは東川高校の間を捲り差し、向こう正面の直線を走り抜けていたが2マークでようやく勝負が決まり始めた。

2着に東川高校の1人が抜けた。

3着争いをこむぎとナツ、他の東川の生徒が続ける。

2周目に入り、1着と2着の差は大きく離れ、2周目2マークで3着争いにケリがついた。

小回りの利く旋回をしたナツが、他の艇を出し抜き差しを決めたのだ。

結果、1位けやき、3位にナツ、こむぎは4位に終わった。

「あーあ、4着かぁ…。全然ダメだったなぁ…。でもナッちゃん凄い!」

「えへへ。まぐれなのです。」

「けやきちゃん!やったね!」

「…これくらい普通。」

2軍が相手とは言え、好成績を収めた1年に続き、2年達が準備を始める。

「私たちの番ですね、2人とも。」

「よっしゃー!行くぞー!」

「……」

「おい!とあ、いい加減シャキッとしろ!次はあの彩峰と戦うんだぞ!」

「わかってる!」

「いつまで、うじうじ悩んでんだよ!上手くいかないからって私たちに当たるなよな!」

「なっ!私は何も…!」

「地区大会が近くなって焦ってるのは、とあだけじゃないんだよ!」

「負けたら廃部なんだぞ!思い詰めるのは当然だ!ふたばは、呑気すぎるんだ!」

「二人とも!今は喧嘩してる場合じゃないですよ!先生!見てないで止めてください!」

「いやいや、このまま喧嘩してくれた方が廃部になって俺は楽なんですが…。」

その様子をベンチに座って見ていた風守が怠そうに答えるといこのが、睨み返した。

「わあったよ!こうしよう。次のレースで負けた方が土下座して謝って、みんなに夕飯を奢る。互いの正義がぶつかったら勝負で雌雄を決するのが定石だ。」

「私は構わないぞ!今のとあなら楽勝だな!」

「ふたば、私にも我慢ならないことがある。今回は風守先生に乗せられてやる。」

2年達の2レース目が始まった。

1コースに彩峰、2コースにとあ、3コースにふたば、4コースにいこの、5・6コースには東川高校が陣取った。

「2コースは譲ってやったんだ。これで負けたら、とあは本気でポンコツだぞ~。」

「何を言ってる。レースはコース取りから始まってるんだ。ふたばこそ油断しすぎなんじゃないか?」

待機行動中でも二人の喧嘩は続く…。

すでに東川高校のエースのことなど眼中にないようだ。

4コースのいこのは気が気ではない。

「二人とも何をしてるんですかぁ…。」

そんなこんなしている間に、アウトコース3艇がダッシュスタート。

インコースの3艇も走り出した。

ほぼ横並びでスタートを決める6艇。

1マークは混戦状態。

1コースの彩峰が逃げ、それを追うのは4コースから捲り差したいこのだ。

ただ、直線に入るころには、彩峰といこのの差は1艇身ほど離れてしまった。

「やはり一筋縄ではいきませんね…」

一人毒づくいこのの後ろでは、とあとふたばが並走してくる。

(やるな、ふたば)

(とあの奴、やっと本調子か)

2マークでも華麗なターンを決めた彩峰は、直線に入りいこのとの差をさらに空けていく。

とあとふたばも2マークを旋回し、ふたばがやや前に出始めていた。

2周目1マーク、1・2着の雌雄は決していたが、3着争いにとあとふたばが挑む。

ふたばが先にターンを決め、勝利を確信した時、内側からとあが差しを決め、颯爽とふたばの脇を抜けていった。

「なっなに!?」

「やはり油断したな!ふたば!」

とあの差しが決まり二人の戦いに決着がつくと、そのままの着順でレースも終わりを告げた。

練習試合が終わり、ピットに戻るとボートレース部には笑顔が戻っていた。

「んにゃぁあ!負けたー!」

「ふたば、約束は守ってもらうぞ!」

「あ、とあちゃん久々に笑ってる!」

こむぎに指摘され、少しはにかむとあ。

「…みんなすまない。私は…」

「もういいって!廃部のこともあるけど、ボートを楽しもうぜ!」

「…そうだな。私は大事なことを忘れてたみたいだ。ふたばは、やはり私のライバルだ。」

そこへ彩峰がやってくる。

「あんたら、結構やるじゃん。去年とは大違いね。ま、ウチの一軍には敵わないと思うけどね。」

「お疲れ様です。彩峰さん。今日はありがとうございました。次は負けませんわ。」

「ま、せいぜい頑張ってね。ウチの二軍に勝ったくらいでいい気にならない方がいいよ。」

捨て台詞とともに彩峰は去っていく。

見送るいこのは笑顔だったが、目は一切笑っていなかった。

「なに、あいつ。めっちゃ怖いんですけど…。」

そんないこのを見ていた風守が素直な感想を漏らす。

「先生、何か仰いましたか?」

「いえ、何も!」

いこのの威圧感にあっさり負ける教師。

情けない。

「じゃ、約束通り今日は私の奢りだ!みんなご飯行くぞ~!」

ふたばが招集をかける。

「ふたばさん、今日は先生もお誘いしましょう。」

「えー!」

不満そうな声をあげるふたば。

「お誘いしましょう!」

「わ、わかったよ…。」

ふたばの方を見ながらいこのが押し切るとあっさり承諾するふたば。

「え?いいの!?いや~悪いね。給料日前だから助かりますぜ。」

「いつも先生にはお世話になってますから。ね、皆さん。」

「あ…ああ。」

苦笑いしながら答えるとあ。

「でも、生徒に集る教師って…。」

「顧問がこれじゃ恥ずかしいのです…。」

こむぎとナツは呆れ果てる。

「さ、けやきさんも準備してください。行きますよ。」

「わかった…。」

ボートレース部全員揃っての初めての食事会。

いつも部員が集まるファミレスだ。

食事を済ませ、トイレから風守が戻ると1枚の伝票だけが残されていた。

「払いは俺なのかよ…」

宿敵(ライバル)

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

凪庵

凪庵

代表作

『僕の部屋がダンジョンの休憩所になってしまった件 放課後の異世界冒険部』
WEBコミックガンマ+(竹書房)にて連載中
『待機列ガール』サイコミ(講談社)全6巻
『新しい 彼女がフラグをおられたら』月刊少年シリウス(講談社)全4巻
『彼女がフラグをおられたら』月刊少年シリウス(講談社)全10巻