STORY #6

#6 RACE

障害

  • 栗早家鷹
  • 八城惺架

梅雨も明け、どんよりとした曇り空が青空に変わったある日、授業終了後の海月女子学園の一室で数人の教師が集まって会議をしている。外の青空とは対照的にこの部屋には、まだ曇り空が立ち込めている。

『部活検討委員会』簡単に言ってしまえば現在活動中の部活の成果を精査し、成績が芳しくない部活は廃部とする集まりだ。委員長を務めるのは、主幹教諭の伊坂。日本一の大学出身のエリート数学教師である。

「では、部活検討委員会を始めます。まず、各顧問の先生から廃部候補の部活の活動報告からお願いします。」

風守は会議室の末席に陣取り、怠そうに他の教員の報告を聞いていた。正確には聞いているフリをしているといった方が正しく、うたた寝をし始めた頃、伊坂が風守の名前を呼んだ。

「では、風守先生。……風守先生!」

「はいっ!何でしょうか!?」

伊坂は軽く咳ばらいをし、風守に促す。

「ボートレース部の報告をお願いします。」

「はは…すいません。うちは…特に変化なしです。この分だと、当初の予定通り夏の大会でボートレース部は廃部ですね。彼女たちも頑張ってますが…。」

愛想笑いをしつつ、風守は当り障りのない報告をする。

「そうですか。ボートレース部の活動は、予算を圧迫しますからね。成果が出せない現状では、廃部は致し方ありません。前回同様、廃部の最有力候補とするということで、皆さん異論はありませんね?」

伊坂の問いかけに風守以外の教師全員が賛同の返事をする。

風守は末席でその光景を冷めた目で見つめていた。

「よーし!今日もやるよー!平和島こむぎ、行きまーす!」

晴れ渡った空のもと、ボートレース部の面々は、今日も練習に励んでいた。

いつものようにボートの整備を終え、水上練習が始まった。

ただ一人、浮かない顔をしているのはとあだ。

「とあさん、どうかしました?」

「いや、何でもない。」

「とあさん?」

とあは、心配するいこのを振り切りボートに乗り込んでふたばと共に模擬レースの準備を始める。

「よーし、とあ行くぞー!」

「……。」

とあとふたばは、ピットを離れスタート位置につく。1コースにふたば、2コースとあが陣取る。ほぼ同時にスタートを切り、水上を駆け抜ける2艇。しかし、とあが直線でやや遅れ始める。

そして、2周目の2ターンマークふたばを捲ろうとしたとき、とあのボートがキャビテーションを起こし、大きくアウトコースに膨らんでしまった。

そのまま遅れを取り戻すことができずにゴール。ピットに戻る。

「にゃはは。あたしの勝ち~!でも、とあ~どうしたんだ?調子でも悪かったのか?」

「…何でもない。ただ、操舵ミスしただけだ。」

「でも、いつものとあなら、こんなミスしないぞ~。調子悪いんじゃないのか?」

「…うるさい…。」

「え?」

「うるさい!何でもないって言ってるだろ!ミスしただけだ!」

「なっ何だよ、その言い方!人が心配してるのに!」

「いつもいつも余計なお世話なんだ!調子悪くなんかない!」

「こいつっ…」

2人の様子に気付いた他の部員が割って入る。

「二人とも落ち着いてください!」

「そうだよ、とあちゃんどうしたの?」

「ふたば先輩もやめるのです!」

「だって、とあが!」

「はいはい。そこまでにしろよ~。揉め事を起こすと廃部になるぞ~。あ~でも、廃部になれば俺の仕事が一つ減るな。やっぱ続けてくれる?」

白衣姿のままの風守が皮肉交じりでピットにやってきた。

「うっせ!キモオタ理科教師!」

「…ただでさえ女にキモいって言われるのはキツイのに、JKに言われると通常の3倍キツイな…。」

「だったら、もっと言ってやろうか!?」

「これ以上言われたら、おじさん死んじゃうからやめてね。」

「先生、あなたは顧問として振舞ってくれるんじゃなかったんですか?」

いこのが、冷たい声で問う。

「俺なりにって言ったはずですが?俺なりに顧問っぽい事をしにきたら、こんな状況だったわけ。」

「先生の用事って何なのです?」

「よくぞ聞いてくれた!女の冷たい視線で心臓が止まりそうだったんだ。東川高校が勝負を仕掛けてきた!明後日、練習試合するってんだがどうする?」

「東川高校ってボートレース部の名門ですよ!?そんなの聞いてないですよ!」

「そりゃそうだ。だって、今言ったんだもん。」

「先生、いつも急すぎるのです!」

「だって、急な話なんだもん。」

「部長として申し上げるなら、今の状況では無理です。」

いこのの反論を聞いて、風守は眼鏡をかけながら今まで見せたことがない鋭い目つきと低い声音で言い返す。

「あの二人のことがあるからか?おいおい、廃部寸前なのに随分と余裕だな。お前らは崖っぷちだってことを忘れんな。」

「くっ…!」

そんな風守を見て、こむぎ、ナツ、いこのは言い返す言葉が見つからない。

「じゃ、とりあえず問題の二人に聞いてみるか。どうする?やるか?」

「あたしはやるぞ!キモオタにここまで言われて黙ってらんねーしな!」

「……。私もやります。」

そのやり取りを尻目にガレージでモーターの整備を続けていたけやきにも同様の声掛けをする。

「大國~!お前はどうする?」

「………私は…構わないです。」

少し…というよりは、返事には長すぎる間が空いてけやきが答える。

「どんだけ時差あんだよ…。だとさ。部長どうするよ?」

「……分かりました。私もあなたにここまで言われてやらないわけにはいきません。」

「私もやります!やるしかないのです!」

「確かに、名門校と戦えるって貴重な経験かも…。でも、とあちゃんが…。」

「こむぎ、私は大丈夫だ。」

「とあちゃん…。」

「じゃ、決まりだな。そろそろ女の敵意に耐えられなくなってたんだ。本気で死ぬ。俺は、先方に返事してくるから部活が終わったらガレージの鍵を理科準備室まで持ってきてくれ。よろしく。何かこの前もこんな展開だったな。」

眼鏡を外した風守はいつもの調子に戻り、ヘラヘラ笑いながら去っていった。

明後日の練習試合に向けて、6人は練習に戻る。またも大きな不安を抱えながら…。

障害

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

八城惺架

八城惺架

代表作

小説『察知されない最強職(ルール・ブレイカー) 』ヒーロー文庫 挿絵
『温泉むすめ(湯郷未彩)』キャラクターデザイン