SEASON3

STORY #11

#11 RACE

準優勝戦スタート!

  • 栗早家鷹
  • スズナスズシロ

予選が終わり、準優勝戦に出場する3校が決まった。

予選通過した高校は歓喜し、予選通過できなかった高校は帰り支度をはじめ、涙を堪える生徒もいる。

予選を首位通過したのは鮫島高校。それに東川高校が続く。

海月女子学園も何とか予選を通過したが、上位2校との点差は大きい。

歓喜と涙に包まれた選手控室で海月女子学園ボートレース部は掲示板の前に集まっていた。

「予選、通過できましたね」

「ああ…。何とかな」

「予選通過したのは、やっぱり鮫島と東川か」

「……明日の準優勝戦で1校は消える」

「予選2位の東川高校との差は10点…」

「10点…」

こむぎは、掲示板の隅で張り出された順位表を見つめながら呟いた。

「あら?あんた達、久しぶりね!」

「彩峰さん」

彩峰はづき。東川高校のエースで以前、練習試合した相手だ。

「まさか、あんた達がここまで残るとはね」

「へっへーんだ!私達だってやるときゃやるんだよ!」

「そーかもね!ま、せいぜい鮫島にやられないように頑張んなよ!」

そう言うと彩峰は去っていった。

「彩峰って、あんなこと言うやつだったか?」

「あの方なりに私達のことを認めてくれたのではないでしょうか」

いこのの顔が少し綻ぶ。

「何だか嬉しそうだな、いこの」

「そうですか?いつも、彼女には負けてしまっていましたが、今度こそ勝ちます!」

「あの子も出ているんでしょうか?」

「あの子?」

「地区大会でナッちゃんと私と当たった子です」

「染谷…里奈さん…でしたっけ?」

「そう。あの子」

「あの子、嫌な感じの子だったのです」

「でも、腕は一流だよ。私も次は勝ちたい…」

彩峰の背中を見送っていると、立花が風守を引きずってやってきた。

「みんなー!よく頑張ったわね!」

「立花先生!!」

「みんながここまで来れて、私も嬉しいわ!」

「先生が送ってくれていた練習メニューのおかげです!」

「あら?それだけじゃないわよ?みんなが頑張ったからよ!それに…」

「それに?なんですか?」

「練習メニューを考えたのは私だけじゃないのよ」

「え?」

「地区大会以降は、けやきちゃんと風守君も一緒に考えてたんだから」

「えー!?」

「先生が?」

「信じられない…」

「…こうなるからやめろって言ったのに」

「何よ〜いいじゃない。あなただって、この部活に愛着が湧いてきたんでしょ?」

「ほとんど大國が作って、俺が少し手を加えただけですよ」

「でも、先生のテコ入れは的確だった」

「興味ないって言ってたくせに、どう言う風の吹き回しだよ?」

「せっかくやるなら、きちんとやりたかっただけだ。それに、お前らまだ優勝したわけじゃないんだから気を抜くなよ」

照れ隠しなのか、頭をかきむしりながら風守は言葉を返す。

「そうだ、平和島。優勝戦に向けて自分のモーターをいじっとけよ。お前の腕とセンスがあるはずだから、あとは乗り物の方をどうにかすれば良いとこまでいけると思うぜ」

「え?あ、はい…。急にどうしたんです?」

「何となくだ。整備が終わったら、さっさと宿舎に戻って早めに休めよ」

そう言うと風守は、部員に背を向け控室を後にした。

「風守先生、どうしたんですかね?」

こむぎが立花に問う。

「……」

こむぎの問いに立花は、応えなかった。

**************

翌日、準優勝戦が始まった。

準優勝戦は3レースで構成される。

1レースは鮫島高校3名、海月女子学園3名で構成されていた。

1レースに出場するのは、けやき、とあ、ナツの3人だ。

レースの準備でごった返すピットの隅のベンチで風守が眠い目を擦りながら部員達を見守っていると後ろから声をかけられた。

「風守先生」

その声の主を探ろうと背後に目を向けるとあの三影が立っていた。

「あんたか…」

「そんなに嫌な顔しないでくださいよ。それに僕だって海月女子学園がここに来るお手伝いをしたんですよ?少しは感謝してくださいよ」

「ああ、そうだな。どうもありがとう」

苦虫を噛み潰したような顔をしながら風守が礼を言う。

「本当に感謝してます?」

笑顔を見せてはいるが、相変わらず三影の目は笑っていない。

風守は、部員達に視線を戻す。

「感謝はしてるが、お前のことは嫌いなんでね」

「あははっ!そうでしたね!でも、それだけじゃないでしょ?元気がないのは」

歯を食いしばると奥歯が歯軋りした。

「何のことですかね?」

「色々聞きましたよ?叔父から。まあ、今はあなたのことは関係ないですし、彼女達を応援するとしますか。で、海月女子学園に勝算はあるんですか?こむぎちゃんのモーターは最低勝率のモーターみたいですけど?」

「さあね。俺には細かいことはわからん。だがな、一つだけ確かなことがある」

「何ですか?」

「うちの部員は、同じ相手に遅れをとるほどボンクラ揃いじゃない」

不敵な笑みを浮かべながら応える風守に舌打ちをする三影。

「相変わらずの減らず口だ」

「そりゃ、お互い様だろうが」

「まさに、口は災いの元。その口の悪さが、ご自身の立場をなきものにした事を学ぶべきですよ」

「残念ながら、ここがちょっと痛い子なんでね。不治の病に罹ってるんだ」

風守は、頭を人差し指で小突きながら皮肉で返す。

「可哀想な方ですね。まあ、せいぜい頑張ってください。優勝するのは鮫島ですけどね」

「ああ、そうさせてもらう。つっても、頑張るのはあいつらだけどな」

「ふんっ!それでは!」

鼻息を荒くしその場を去っていく三影の背中を見送りながら、風守は深い溜息をついた。

**************

1レース開始前のピットは各校の生徒の喧騒で包まれていた。

生徒達はレース直前までモーターとペラを調整し、優勝への可能性を手繰り寄せようと必死だ。

そうこうしている内に1レース出場選手の招集をかけるブザーが鳴った。

「いよいよか…」

「……」

「い、行ってくるのです」

1レースに出場する3人の表情は固い。さすがのけやきもいつも以上に無口になっていた。

「とあちゃん、頑張って!」

「けやきさんなら大丈夫です」

「ナツ!しっかりやれよ!」

見送る3人も緊張を抑えながらエールを送る。

「よし!いくぞ!二人とも」

「うん」

「はい!なのです!」

とあの気合いに満ちた声がけで3人はボートに向かう。

1号艇鮫島高校、2号艇とあ、3号艇東川高校、4号艇けやき、5号艇鮫島高校、6号艇ナツ。

この6名で1レースは編成されていた。

乗艇前に6名は横並びで敬礼し、自分のボートへ向かった。

6名全員が乗艇するとエンジンを始動し、出走ランプを見つめる。

(このレースを落とすわけにはいかない。必ず優勝するんだ)

(鮫島だけには負けたくない。準優勝戦で落とす!)

(こむぎさん達に希望をつなぐのです!)

海月女子学園の3名はそれぞれの胸の内で勝利を誓い、出走ランプが点灯すると勢いよく飛び出していった。

6コースのナツは充分な助走距離を取るために大きく旋回し、外枠後方に陣取り、けやきもダッシュスタートを決めるべく、助走距離を稼ぎにいく。

とあは、1号艇の真横につけ大時計を見つめていた。

全艇枠なりに並び、あとはスタートタイミングを合わせるだけだ。

ナツは大時計の針の進み具合を確認して、アクセルレバーを握る。少し遅れて内側のけやきも加速していく、けやき達が内側3艇の位置に達する直前にとあ達も動き出した。

全艇がスタートラインを通過し、正常にスタートを切ることができた。

一番スタートタイミングに合っていたのは、やはりけやきだ。

しかし、1号艇の鮫島高校もほぼ同時にスタートラインを通過していた。外側にいる分、けやきは1マークでの旋回がしにくい状況にある。

不利な状況にあったけやきはアクセルレバーを強く握り締め1マークに突っ込んだ。

1号艇を捲っていく戦法だ。

だが、1号艇の鮫島高校はインコースの利点をフルに活用し、旋回半径を小さくしながら滑るように1マークを旋回していった。

いち早く旋回を終えたのは、1号艇の鮫島高校だった。

外側から捲ったけやきは必死で喰らい付く。幸い、1号艇とけやきの差は僅差。

「前の練習試合の時とは違う…。簡単には勝てない」

その後をとあが追う。

ナツは、後続3艇の一番外側に位置し、3号艇の東川高校と5号艇の鮫島高校の前に出ようと全力で向正面の直線を駆け抜ける。

先頭集団が、2マークに差し掛かる頃、モーターの性能に助けられつつもとあがけやき達に追いついた。

「よし!何とか追いついたぞ!」

けやきは、内側に位置する1号艇を2マークで抜くことに必死だ。

「逃がさない!これで!」

けやきは1号艇の横にピッタリとついて2マークを旋回する体制に入る。

いわゆるツケマイを狙ったのだ。

しかし、けやきの腕を持ってしても1号艇の鮫島高校を抜き去ることはできない。

「くっ…!」

けやきは歯を食いしばり、悔恨の声が漏れる。

一方、とあはけやき達の外側を旋回し、外側からモーターの伸びを活かして直線で差をつけようとしていた。

「こいつの性能ならやれるはずだ!私に力を貸してくれ!」

そう叫ぶととあはアクセルレバーを握り、体制を低くしながら加速していく。

ナツはというと、後続集団のトップ、つまり4位の位置につけると3号艇と5号艇を前に行かせまいと必死で直線を走っていた。

「この状況で私が先頭集団に追いつくのは無理なのです…。とあ先輩とけやき先輩に全てを託します」

ナツは2周目1マークを4位通過することに割り切る。

トップ集団が2周目1マークに差し掛かっても順位が入れ替わることはなく、3艇がひしめき合って旋回していく。

「いい加減諦めろ!こいつら!」

1号艇の鮫島高校の生徒が毒づく。

向正面の直線を3艇が差し掛かったところで、後続3艇も2周目1マークを旋回していた。

ナツが3号艇と5号艇より先に旋回し、後続2艇を引き波に乗せることに成功。後続集団の順位は、ほぼ決定した。

「やったのです!とあ先輩、けやきさん、あとは頼みましたよ」

先を疾走するトップ集団を見やるととあの2号艇が直線で僅かながらトップに躍り出るところだった。

「いける!このモーターなら。次のターンで前に出てやる!」

けやきも自分の外側を走るとあを横目で確認しつつ2周目2マークでもう一度ツケマイを仕掛けるべく、1号艇の真横から離れない。

「私がここでツケマイを決められれば、とあ先輩が1位だ。次こそは!」

2周目1マークでとあは外側から捲り、1号艇はターンマークすれすれを旋回、けやきも真横につきながら再度ツケマイを決めようとする。

「くぅぅ!」

しかし、今回もツケマイは失敗し、逆に1号艇の引き波に捕まってしまった。

減速するけやき。

「しまった!」

ヘルメットの下で苦虫を噛み潰したような表情になるけやき。

1号艇の鮫島高校の生徒は、順位を落としたけやきを振り返りながら毒づいた。

「私としたことが!ノーマークだった奴に抜かれるなんて!」

3周目に入るととあが機力を活かして鮫島高校との差を広げていく。

「抜かせない!」

「くっ!エンジンの差か!これじゃあ、あいつに追いつけない…。せめて大國には抜かれないようにしないと!」

1号艇の鮫島高校は、けやきに抜かれまいと引き波を利用して、けやきのスピードを殺そうと必死だ。対するけやきは引き波をやり過ごしながら何とか僅差を保っている。

3周目2マーク。決着の場所はここだ。

鮫島高校がとあが作った航跡に乗らないようやや外側から旋回の体制に入った。

けやきはその隙を見逃さなかった。

「そこっ!」

けやきはターンマークギリギリを旋回すると鮫島高校を差して抜き去っていく。

「何っ!?」

意表を突かれた鮫島高校はけやきが作った引き波に乗り減速した。

「やったのです!」

後方からその様子を見ていたナツは思わず歓声を上げる。

そのまま、ゴールに向かってとあとけやきは疾走。準優勝戦1レース目は1着とあ、2着けやき、3着1号艇鮫島高校、4着ナツ、5着3号艇東川高校、6着5号艇東川高校で決着した。

**************

「やったー!とあ達やったぞ!」

「すごいレースでしたね。これで、少しは点数が稼げました」

「とあちゃん達すごい!私も頑張らなきゃ」

ピットで観戦していたこむぎ達も歓声を上げる。

優勝戦に進めるのは2校、ここで1校が脱落となる。

海月女子学園の本当の闘いはこれからだ。

準優勝戦スタート!

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

スズナスズシロ

スズナスズシロ