SEASON3

STORY #9

#9 RACE

ドキドキ全国大会!

  • 栗早家鷹
  • スズナスズシロ

受験シーズンも終わり、ついに高校女子ボートレース部の全国大会が幕を開けようとしている。

全国大会は3日間で行われ、初日はボートとモーターの抽選が行われ、2日目に予選、3日目の午前中に準優勝戦、午後に優勝戦が行われる。

海月女子学園ボートレース部も会場に到着した。

「うわー!やっと着いたー!すごーい!全国のボートレース部が揃ってる〜」

こむぎは大はしゃぎだ。

「本当に…全国大会まで来たんだ…」

「すっげ〜…」

「やっとここまで来れましたね」

「頑張るのです!」

部員それぞれが感慨に耽る。

「おい、感激してるのはいいが、荷物下ろすの手伝えよ…」

レンタカーのワゴンから荷物を下ろす風守が6人に声をかける。

「あ…忘れてた…」

けやきが風守を振り返ると1人額に汗を滲ませながらげっそりとした顔で作業に勤しむ男がいた。

「俺のことは忘れても構わんが、自分達の荷物は忘れないでくんない?」

「はいはい、手伝いますよー」

こむぎは意気揚々と車から荷物を下ろしだすと、他のメンバーも車に戻ってきた。

「ていうか先生、もっとマシな格好できないのか?」

「よれよれのワイシャツにくたびれたジャケットって、何かリストラされたサラリーマンみたいなのです」

ふたばとナツが風守に白い目を向けながらトラベルバックを背負う。

「俺のファッションセンスに期待するな。それに俺の安月給じゃ、まともなスーツなんて買えないんだよ」

「他の学校の先生に比べると……。地区大会の時も不審者に間違われていたし…」

とあの独り言に風守は、さらにげんなりした様子で、自分の荷物を担ぐ。

「いこのに頼めば買ってもらえるんじゃないか?」

「あ、それいいかも!いこの先輩、買ってあげてください!」

ふたばの冗談にこむぎが賛同して囃し立てた。

「はあ、まあスーツくらいならウチが持ってるお店で差し上げることもできますが…」

キョトンとした顔でいこのが答えると全員が驚愕の表情を浮かべる。

「いこの…一応聞いてみるが、そのスーツって幾らくらいするんだ?」

「お手頃なものから高級品まで取り揃えていますが、最低価格で10万円とお店の方は言ってました」

「じゅ…じゅうまんえん?」

こむぎがうわ言のように繰り返した。

「10万のスーツっていこの…」

とあも驚きを隠せない。

「それでよろしければ先生、ご用意できますけど?」

いこのは、何の躊躇いもなく問う。

「俺は施しは受けん!」

焦りつつ申し出を断る風守。

「いやいや、何だかんだで割と私達に集ってるのです…」

そんなくだらないやりとりをしていると、いつの間にか全国大会の出場受付に向かっていたけやきから声がかかった。

「先生、受付終わっちゃうよ!」

「何!?俺は受付行ってくるから、お前ら荷物運んどけよ!」

そう言うと風守は、受付に走っていった。

**************

全国大会では、プロの世界と同様にボートとモーターの抽選が行われる。

抽選会場は、出場校が集まり騒々しい。

大会運営者が入室すると抽選が始まった。

最初の学校から抽選が始まり、抽選機から吐き出される玉に書いてある番号が次々に読み上げられていき、海月女子学園の順番が回ってきた。

「あ〜ドキドキする〜」

抽選機の前に並んだ6人

「では、私から行きますね」

部長のいこのが抽選機を回し、残りの5人も後に続く。

それぞれが抽選機から吐き出される玉の番号を控えるとボートとモーターの成績を掲示板に確認しにいった。

プロの世界では、ボートとモーターの抽選が行われる。

特にモーターは規格が同じでも個体差があり、レースの勝敗に大きく関わってくる。

簡単に言えば、調子の良いモーターと悪いモーターが存在し、プロの選手は皆、調子の良いモーターを狙っている。

前検日に抽選されたモーターは、レース期間中使用することとなるため、最初に良いモーターを引き当てることが重要になってくるのだ。

中でも高い勝率を誇るモーターは『超抜モーター』と呼ばれ、プロの選手はこの超抜モーターを当てることを狙っている。

いい腕を持つ選手が、この超抜モーターを引き当てることができれば、勝利の確率がグンと高くなる。

ただ、調子の悪いモーターを引いてしまったとしてもモーターを整備することで悪いモーターが良いモーターに化けることもある。

抽選で選ばれるのは、モーターとプロペラの2つがセットになっており、この2つを整備することでモーターの調子を良くすることもできるのだ。

選手の腕だけでなく、整備力が勝利に大きく関わってくるのがボートレースという競技なのだ。

モーターの成績が貼り出されている掲示板で6人は自分の引き当てたモーターの性能を確認する。

ふたば、けやきが引き当てたモーターは全80機中上位にランクインする勝率を誇るモーターで、いこの、ナツは中程度のもの、とあは勝率2位のモーターを引き当てた。

「お!すげー!とあ、エース機じゃん!」

「本当ですね!とあさん、すごいです!」

「あ…あわわ…私は何てことをしてしまったんだ…」

喜ぶ2人とは対照的にとあは戦々恐々とている。

「とあ先輩、何でそんな反応なのですか?」

「い、いや…だって、エース機を使うんだぞ?私に使いこなせるかどうか…」

「ほんと、とあは心配性だなぁ。少しは自信持てよ」

「し、しかし、ふたば…」

「いつもの調子でやれば、とあ先輩は大丈夫…」

5人が和気藹々と談笑している中、さっきまで騒いでいたこむぎが急に静かになっていた。

そんなこむぎに気づいたいこのが声をかける。

「こむぎさん?どうしたんですか?」

振り返ったこむぎの顔は今にも泣き出しそうに歪んでいる。

「いこのせんぱぁ〜い…あたしだめかもぉ…」

こむぎは、ついに半べそ状態になってしまった。

「何があったんだ!?こむぎ!」

「これぇ〜…」

震えるこむぎの手には抽選されたボートとモーター番号が記載されている抽選書が握られている。

ナツは抽選書をこむぎから受け取り内容を確認した。

「こ…これは…」

掲示板とこむぎの抽選書を見比べながら、何度も番号を確認する。

「ナツ、どうしたの?」

流石のけやきも心配になったようだ。

「こむぎさんのモーター…」

「こむぎのモーターが何だっていうんだ?」

とあも怪訝な顔で問う。

「今回、使用されるモーターの中で一番勝率が低いモーターなのです…」

「うわ〜ん!そうなんだよ〜…どーしよー!」

先ほどまでニコニコ顔だったこむぎの顔は一気に泣き顔へと変わってしまった。

他のメンバーも慰めの言葉を探すが、なかなか見つけられない。

「おい、お前ら抽選が終わったならさっさと戻れ」

風守は淡々と促す。

「いや、でもこれは…」

とあが小さな反論をするが無駄な行為だ。

「運が悪かったな」

辛辣な一言。

それを受けたこむぎは更に絶望にくれる。

「ひっど!」

「もっとデリカシーを持ってほしいのです」

ふたばとナツの批判をスルーし、風守は続ける。

「はいはい、お前ら恥ずかしくないか?」

そう言うと風守は、周囲に目を向けるようジェスチャーで視線を促す。

掲示板の前で騒いでいた海月女子学園は他校の好奇の目に晒されていた。

クスクスと笑い声も聞こえるし、掲示板の確認に来た他校の生徒の視線が痛い。

「そう言うわけだから、さっさとずらかるぞ。どーもすみません」

感情の籠らない謝罪をした風守に赤面しながらついていく事しか彼女たちにはできなかった。

**************

抽選を終えて、食堂で昼食を食べ始めるとこむぎの動揺も治まってきたようで、普通に会話ができるようになっていた。

「あーあ、ついてないなぁ…」

こむぎは、うどんが入った丼のスープに映る自分の顔を見つめながら呟く。

「流石にあのモーターの勝率見ちゃうとな〜」

「でも、大半のモーターは50歩100歩だし、そこまで気にすることもないと思うのです」

「そうですよ、こむぎさんはプロのレーサーとのレースも経験しているわけですし」

口々にこむぎに励ましの言葉をかける部員達。

「ボートレース部の大会はチーム戦だし、みんなで頑張れば大丈夫」

そう言うと、けやきは小さな口でうどんを啜る。

「確かにけやきの言う通りだな!とあはエース機を引いてるし!」

ふたばが、とあを見やる。

「そ…それを言わないでくれぇ〜…」

とあは頭を抱えながら机に突っ伏している。

「いやいや、とあは大丈夫だろ」

「私なんかに使いこなせるかどうか…」

「いつも通りやれば大丈夫ですよ、とあさん」

ふたばといこのがとあを励ますが、とあは納得しないようだ。

「とあちゃん、そう言うところ昔から変わらないよね。小学校の学芸会の時もそうだった」

「こむぎ〜余計なことを言うな〜」

「とあちゃん、いつも上手くできてるんだから大丈夫だって」

「…簡単に言うな」

口を尖らせながらとあはいじけていたが、多少はリラックスできたようで現実的な話題を振る。

「それよりもこむぎのモーターの方が大事じゃないのか?きちんと整備してレースに臨まないとこむぎのスペックを引き出せないぞ」

「あーそうだったー!どーしよう…。私、整備に自信ないよ〜」

「整備なら私達も助言はできる。ペラの調整とか上手くやれば、モーターは化ける…」

「でもぉ…。今まではある程度整備されてるものをちょこちょこ弄れば済んだけど、今回はそう言うわけにはいかないじゃーん!」

こむぎもまた部員の励ましの言葉に納得できず、また騒ぎ出した。

「あ〜うるさい。お前ら飯くらい黙って食えんのか?」

揚げ物盛り合わせ定食を頬張りながら風守が口を挟む。

「だって先生!私どーしたらいいかわかんないんだよー」

「バッカ!お前、唾を俺の飯に飛ばすな!」

「何とかしてよー!先生!」

「抽選で決まっちまったもんはしょうがないだろ。俺は未来からきた猫型ロボットじゃないんだよ。大体、レースに勝つのはお前らの仕事だろ?」

「そんな身も蓋もないこと言わないでよ〜。わかってるもん、そんなこと。ちょっとは励ましの言葉とかかけられないの?」

「俺を誰だと思ってる?風守誠太郎だぞ。そんな気の利いた言葉が出て来れば、二次元の彼女なんて持ちません」

「うわぁ…きも…」

部員全員が心底引いていると流石にその雰囲気に耐えかねたのか風守は咳払いをしてから話し始めた。

「いいか?ここにエビフライがある。こいつにとんかつソースをかけるかタルタルソースをかけるか、そりゃ食うやつ次第だよな?どっちをかけるかは状況次第ってこと」

「は?」

部員全員が『ちょっと何言ってるのか分かんないです…』といったセリフが飛び出しそうな顔で風守に視線を送る。

それに焦りながらも風守は続けた。

「いや、だから、弱点をカバーするように整備するのか、はたまた長所にステータスを全振りするかは動かしてみなきゃわからんだろ。それに勝率が低くても整備や選手の腕でカバーできる可能性もあるんだから、今ジタバタしてもしょうがないでしょ」

そう言うと、箸でつまみ上げたエビフライを風守は口に運ぶ。

訳の分からない例え話に微妙な空気も流れていたが、6人は妙に納得した気分になっていた。

「こむぎさん!先生の言う通り試運転してからみんなで考えましょう!それにこむぎさん1人で戦うわけじゃありません。みんなで優勝を勝ち取るんです!」

いこのが微妙な空気を吹き飛ばすように言う。

「そ、そうですね!いこの先輩!私…頑張ります!」

こむぎもいつもの調子を取り戻す。

「間違っても整備は自分のモーター以外いじるなよ。他人のモーター整備したら失格だからな。全員に言えることだが、助言はしていい。手助けはするな」

もぐもぐと定食を平らげながら風守は続けた。

「わかってるのです!全国大会で失格なんてあり得ないのです!」

ナツが腕を振り上げながら答える。

「そうだな…。自信はないが、やれることをやろう」

「難しく考えすぎなんだよ、とあは。とにかく頑張ろーぜ!」

「鮫島高校に負けたくない…」

6人は優勝への決意を新たにすることができたようだ。

「て言うか、先生いつまで食べてるんですか?」

いこのが、苦笑いをしながら問う。

「いや、だってまともな飯をタダで食えるし、ここで食い溜めしとこうかと思って…」

「タダなのは学生だけだよ?」

こむぎの発言に風守は箸を落とした。

何はともあれ、全国大会が始まる。

昼食を済ませると6人は試運転に向かった。

ドキドキ全国大会!

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

スズナスズシロ

スズナスズシロ