SEASON3

STORY #7

#7 RACE

悪夢との決着

  • 栗早家鷹
  • スズナスズシロ

鮫島高校との練習試合のアクシデントの後始末をつけるとすっかり辺りは暗くなっていた。今回の件で、まだ処理しなければいけないことはあるが、ひとまず先送りすることにし、トボトボとまばらに蛍光灯がついた廊下を歩いていく。

大國を寮まで送り届けた後、学年主任やら副校長やらに事の顛末を説明していたら、すでに時計は19時半を回っていた。

定時で上がらなければ、寿命が縮む病に罹っている俺としては死活問題だ…。

重苦しい気分のままプロジェクトチーム用に割り当てられた部屋の前に到着した。

学園の広報宣伝に特化したプロジェクトチームといえば聞こえはいいが、その実態は鼻つまみ者の教員の集まりで、学園の中心メンバーの体のいい雑用係といったところだ。

その証拠に伊坂先生率いる本隊が主な方針を決定している。俺らはその下請け業者のようなもんで、独自の活動と言えばボートレース部に関わることのみだ。

最近は下請け業者としての雑用が忙しく、ほとんど部に顔を出せていなかったことが、今回の件を招いたと言ってもいい。大國に怪我がなかったことが不幸中の幸いか…。

他の連中には反感も買ったし、今日はロクなことがなかったな…。

…などと忌々しい記憶に苛まれつつドアノブを回し、扉を開けるとチームメンバーが一人残っていた。

「あ、お疲れ様」

「あんたまだ残ってたの?」

「君が部で事故があったって言って、仕事ほっぽり出してったんでしょうが。ぼかぁ君の分までやってて残ってるんだよ」

こいつは3年の数学担当の辻伸彦。俺が言うのもなんだが、変わり者で有名なやつだ。なんだか知らないが、この学園で俺と馬が合う唯一の人間と言っていい。

「へいへい、そうでした。助かりました。で、あとは何が残ってる?」

「もう終わってるよ」

不敵な笑みを浮かべて辻が答える。

「な…なん…だと?お前、仕事早いな…」

「僕はやる時にしかやらない男なんでね」

「そりゃ助かった。で、このチームにはあと1人いたはずだが、そいつはどうした?」

「ああ、彼女かい?相変わらず用事があるとか言って、定時で帰ったよ」

「くそ!小娘が!」

そう。このチームにはもう1人メンバーがいる。新卒2年目の女性教員だ。良くも悪くも今どきの女子って感じで、愛想はいいが仕事はしない。そして、きっちり定時で上がる。俺と辻はプロジェクトチーム発足からそいつに振り回されっぱなしだった。

俺としては彼女を見習いたいのが本音だ。ほんと早く帰りたいもん。なんなら、朝起きた瞬間から帰りたいと思っている、オフトゥンに。

「なんで止めなかったんだよ?あいつにも仕事やらせろよ」

「あの子が素直に僕らの言うこと聞くと思うかい?彼女に言うことを聞かせたかったら権力を持つか財力を身につけるしかないねぇ」

「…ぐうの音もでねぇ。一生かかっても無理だな…」

「そう言うこと。とりあえずノルマは済んだし、僕らも帰ろうじゃないか」

ぱたんとパソコンを閉じ、カバンを持ちながら辻が席を立った。

「帰るか…。俺も疲れたし」

そう言って、俺が身支度をしていると辻が声をかけてきた。

「君、このあと用事あるかい?明日は、休みでしょ?飲みにでも行かないかい?」

「珍しいな。まあ、明日は部活があるが午後からだし、少しだけなら構わんけど…」

「じゃあ、決まりだ。さて、どこの店にしようか」

「ああ、それなら俺にアテがあるんだ」

「ほほう。じゃあついていくとしよう」

そう言うと辻は意気揚々と扉を開け、俺に部屋を出るように促す。

辻の厚意に俺の口角が少し上がった気がした。

**************

住宅街の一角に少し小洒落たレトロ調の店が見える。

店の看板には、『カフェ&バー紅音』と掲げられている。

以前、地区大会の終わりに立花先生に連れてきてもらった店だ。いや、正確には連行されたと言った方がいいかもしれん…。

3時間くらい拘束され説教を喰らったんだった。

それ以降、ここには来ていなかったが、店の雰囲気と気のいい店主が気に入り、もう一度来たいと思っていたのだ。

「へぇ。おしゃれなお店じゃないかぁ。誰と来たんだい?」

ニヤニヤしながら辻が問う。

「何を勘違いしてるんだね?俺はここに立花先生に連行されたんだ。そして数時間に及ぶ説教を喰らった」

「まあ、そんなことだろうと思ったよ」

ふふん、と鼻を鳴らしながら答えた辻の顔は元に戻っていた。

何か腹立つな。

「わかってるなら聞くな。入るぞ」

扉を開けるとカウンターから、いらっしゃいませと明るい女性の声が聞こえた。

「あら?静香の後輩さん?えっと…確か…」

「風守です。あと俺のことは覚えてなくて当然です。職場でも殆どの人間に見えてませんので、お気になさらず」

「フフ…相変わらずですね。面白い人」

「人間そうそう変わりゃしませんぜ。紅音さん…でしたよね?ここいいですか?」

「ど〜ぞ〜」

店主の紅音の許可を取ると、店の奥の2人がけの席に腰を下ろし、適当に注文を済ませた。

「で?急に誘ったのは何か理由があるわけ?」

「いーや、特にないけど、何となく君がストレスを抱えてると思ったからね」

「ああ、そうだ。俺はストレスフルだ」

何だか知らんが、こいつの前では素直に喋ってしまう。

「三影君のことだろ?」

俺はギョッとして口にしていたグラスにビールを噴き出していた。

「あーあ、汚いなぁ」

図星を突かれ思わず咳き込む。

「げほっ!…何でそう思う?」

「わかるさ、職員室での君と三影君の距離感見てれば」

「何なの?ずっと俺らのこと見てたの?お前…」

俺としては、怪訝な顔で辻の顔を見ざるを得ない。

過去のトラウマほじくり返されちゃう…。あの時は怖かったなぁ…。

「安心していい、僕はそう言うふうに君達を見てるわけじゃない」

俺が視線で続きを促すと辻はとうとうと語りだした。

「君、彼に遠慮してるだろ?三影君が理事長の甥ってのが気になってるんだと思うけど」

こいつの指摘は間違っちゃいない。

「…それもあるが、一番大きな理由は他にある」

「へぇ、興味深いねぇ」

「俺はあいつが怖いんだ」

意表を突かれたのか辻はキョトンとした顔で俺を見つめる。

対する俺は酔っているのか思わず本音が漏れてしまった。

「…なんだよ?」

「いやぁ、まさか君からそんなセリフが飛び出すとは思わなかったんでね」

「俺をなんだと思ってんだよ?」

「変人」

「お互い様だろうが」

辻はグラスに残ったビールを飲み干すと、ラムのロックを注文した。

「で、彼のどこが怖いの?」

「まあ、ああいう自信たっぷりって感じで生きてる奴にはもともと苦手意識があってな、過去にそういうタイプにこっぴどくやられた経験があるんだ。だから、奴を目の前にするとトラウマスイッチが入っちまうんだろうな。おそらく…」

「ふーん、まあ、僕も彼みたいなタイプは苦手だね。というか、嫌悪感を抱くよ。特に彼には」

「え?お前、何かキャラ違くない?」

辻という男がここまで感情を露わにする奴だと思っていなかった俺は面食らってしまった。

「変人だけど僕にも感情はあるんだよ。僕らみたいなタイプはどう頑張っても彼らのように目立つ人間には、遅れをとるものじゃないか。だって僕らだよ?上手くいってたら、プロジェクトチームなんて箱庭に閉じ込められてないよ」

確かに。どう頑張っても上手くパフォーマンスする奴に俺達のような人種が敵うはずがない。人が人を判断するとき最も重要視することなんて決まっている。固定観念と印象だ。

「ご尤もすぎて、またまたぐうの音もでねぇ…」

「どんなにいい仕事をしようが、結局は僕らのやっている事って印象で判断されるから、評価もされないし注目もされない」

「結局のところそれが俺達の限界ってことだな。10も下の小娘にも舐められてるしな」

わかっていたことだが、人と会話して改めて現実を認識すると言葉にしがたい虚無感に襲われた。

はあ~っ…と思わずため息をついたところで、辻が口を開く。

「でも、まあ、君がボートレース部の顧問としてやってきたことは、上も無視できなくなってるんじゃないかな?取材も受けてるし、その点は理事長だって喜んでたらしいよ。だから、僕らのチームにボートレース部の宣伝活動は一任されてるんじゃないか。まあ、僕は顧問でも何でもないから実質、君が一人でやってることになるけど。少なくとも理事長に利用価値があると認めさせたことは大きいよ。だから、三影君が興味を持ったのだと思うしね。ただ、傍から見てる僕としては、三影君の介入の仕方が気に食わなくて君らの様子を気にしてしまったってのが正直な話さ」

なに?これ、褒められてるの?

俺が、『ごめんなさい…。私、こういう時どういう顔したらいいか分からないの』と言う前に辻は続ける。言・わ・せ・ろ・よ。

「つまり、君は今まで君のやり方で十分彼らと渡り合えるって事だと僕は思うよ」

「褒められたやり方じゃないし、利用されてるだけだけどな」

「利用価値があると思わせただけ儲けもんだよ。それに、僕らが彼らと渡り合うには、彼らのやり方を真似ても一生追いつけないんだから。何だかんだで、部員とも仲良くやってるようじゃないか。彼らを見返した君に僕は期待しているんだ。だから、君と仕事をしている」

「お褒めに預かり光栄だね。部員とは仲がいいわけじゃない。今日は思いっきり文句を言われた。まあ、俺が悪いんだがな」

顔を歪めながら俺が答えると、追加注文した品が運ばれてきた。

「何か難しそうなお話しされてますね~」

「聞いてたんすか?」

「ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんですけど。聞こえちゃって」

紅音は柔らかな笑みを浮かべて少しバツが悪そうに続けた。

「私なんかが言うのも失礼かもしれないですけど、出来ることを精一杯やっていけばよろしいんじゃないでしょうか?静香もあなたに期待しているみたいですし。あの子、負けず嫌いだから人を頼るなんてことしませんよ。風守さんのやり方とペースで出来ることをしていけばいいんじゃないでしょうか」

そう言うと、紅音はニコッと微笑みながら去っていった。

「ま、そういうことだよ。出来ることを精一杯やりたまえ」

辻がニヤニヤしながら追い打ちをかける。

「うっせ!」

俺はグラスに残った酒を一気に煽ると、次の注文をする。

何だか少し気が楽になった気がした。

**************

翌日の午後、ボートレース部の練習の時間だ。

けやきの一件が気になるが、全国大会が近づいているため貴重な練習時間を削るわけにはいかない。

けやき以外の部員が暗い面持ちで部室に集まっていた。

「全国大会も近づいてきましたし、練習を始めましょう」

いこのの声もどこか元気がない。

沈みがちな気持ちのままピットに向かおうとすると部室の扉から三影が入ってきた。

「やぁ!今日も頑張ろう!昨日は中途半端な感じで終わっちゃったし、今日は昨日の続きをしよう!」

部員とは対照的にハイテンションな三影が入ってきた。後ろには鮫島高校の生徒も控えている。

「三影先生、その…練習試合はちょっと…」

「全国大会に向けて実戦に近い形で練習した方がいいって!あれ?けやきちゃんは?」

こむぎがやんわりと練習試合を断ろうとするが、三影は取り合おうとしない。

部員がそれに続いて練習試合を拒否しようと交渉を続けるが、三影に丸め込まれてしまう。

そんなやり取りが続く中、またも部室の扉が開く。

「相変わらず賑やかだな、お前らは」

顔面蒼白でクマを作った風守が入室してきた。その後にけやきも続く。

「あ、風守先生!今日はいらっしゃったんですね」

「いちゃ悪いかよ?それはそうと昨日の続きをするんだろ?やるなら、ちゃっちゃとやってくれ」

風守の発言にけやき以外が反論するが全てを突っぱねるように大声で答えた。

「あいつがやるって言ってるんだ!邪魔すんな!」

それを聞いた一同が唖然とする中、こむぎがやっとの思いで言葉を絞り出す。

「けやきちゃん…本当に大丈夫?」

こむぎを一瞥すると視線を三影達に移しけやきは答えた。

「大丈夫とは言えない…。けど、やるしかないと思ったから。過去と決着をつけないと…」

決意に満ちたけやきの目を見ると、誰も反論することはできなかった。

けやきは、踵を返しレースの準備に取り掛かるのか一人で部室から出ていく。

「どういうことだよ?けやきに練習試合させるなんて」

ふたばが風守に問う。

「あーもう、あんまり大きな声出すな。それと俺に近づくな。あいつがやるってさっき言いに来たんだよ。それでいいじゃねぇか」

風守は頭を抱えながら返答すると今度は三影に向かって話し始めた。

「つーわけで、三影先生、さっさと始めてください」

「はあ、それは構いませんが、先生具合悪そうですね。お休みになられた方がいいんじゃないですか?」

「私の事はお気になさらず。それより俺はあんたに話があるんだ。このレースが終わったら時間作ってもらいますよ」

有無を言わせず約束を取り付けると風守は部室を出て行った。

**************

けやきは一人更衣室でレーシングウェアに着替えレースの準備を進める。あんな啖呵を切ったものの内心はまだ不安を抱えていた。

昨日と部室に行く前の風守の話で向き合う決意はしたもののどうしても拭いきれない不安がある。

「逃げ癖がつく前にやれることを精一杯やろう」

そう独りごちて、けやきはボートに向かった。

すでに鮫島高校の生徒は、準備完了といった感じでボートの前に立っている。

けやきが自分のボートに近づくと鮫島高校の生徒が話しかけてきた。

「今日は転覆しないでよね?天才レーサーさん」

「努力する…。私の因縁を終わらせるためにも」

「ウチから逃げた子が言うようになったじゃない」

「だからもう逃げない。ここで過去の私と決着をつける」

水面を見つめながら応対していたけやきは、これ以上話すことはないと態度で示すように黙ってヘルメットを被り乗艇した。

(私の相手はあの人たちじゃない。自分自身だ)

レースは昨日同様、鮫島高校の代表者とけやきの一騎打ちで実施することになった。コース取りも全く同じ。

けやきは、スタートを待つ僅かな時間に部室に行く前に風守と話した内容を思い出していた。

「リベンジ?」

「そう。先生が言った通り本当の解決を私は望んでる」

「恥ずかしいこと思い出させるのな、お前…。ま、お前がそうしたいなら支援はしよう」

「初めて先生を先生らしいって思った…」

「先生ねぇ…。そんなもんただの肩書だし、ただ先に生きてるってだけなんだよなぁ。先生って漢字をよく見てみろ。『先に生きる』って書いてあるだろ?それだけで何の意味もない」

「そうかもしれない。でも、私にきっかけを作ってくれた。それで十分」

けやきがそう言うと風守はけやきに背を向けて頭をガシガシ掻きむしった。

「じゃあ、行くぞ」

「先生、具合悪いの?」

「心配するな…。ただの二日酔いだ…」

「……。そういうところだよ…先生…」

風守との会話を思い出すと、少しリラックスできた気がした。相変わらず残念な教師だ。雑念を振り切りアクセルレバーを握り締める。

「1周目1マークで勝負を決める!」

キャラに合わないと思いつつもヘルメットの下のけやきは叫んでいた。

けやきの思いに応えるようにボートはぐんぐん加速していく。

インコースに陣取った鮫島高校のボートも動き出した。

けやきと鮫島高校のボートが並ぶ。スタートラインが近づく中、けやきのボートがやや先行してスタートを切った。

ピットでは風守がスタート判定を行なっている。

「先生、今のフライングじゃないですよね!?」

「スタート正常だ」

そう言うと風守はニヤリと笑みを浮かべていた。

けやきは全速で1マークに突っ込み、大きな弧を描きながら旋回。インコースの鮫島高校もその有利なポジションを活かしてギリギリを攻めながら1マークを旋回する。

しかし、スタート時のスピードに乗ったけやきは大きく捲りながらも向正面に差し掛かるところで鮫島高校を制していた。

そのまま直線で鮫島高校との距離を離していく。そのまま、ゴールへと向かってけやきは全速力で駆け抜けていった。

勝負を制したけやきは、ピットで歓声を上げる部員を視界の片隅に捉えながらヘルメットを外し、天を仰ぐ。頬を光る雫が伝ってこぼれ落ちた。

**************

鮫島高校との勝負が終わったところで風守は三影を部室に呼び出していた。部員達は、けやきの勝利を祝いながら片付けの作業に入っている。

「頭のいいあんたなら俺が言いたいことも分かってるな?」

「何のことです?さっぱり検討がつきません」

「お前、大國のこと知ってて練習試合を取り付けただろ?」

「あーそのことですか。知ってましたよ、彼女有名でしたから」

「だったら、転校した理由だって知ってんだろうが」

「あぁ、確かに色々あったみたいですからね」

「知っててやったのか?」

「まあ、そう言うことになっちゃいますかねぇ。正直、あまり考えてませんでした」

呆けた顔で応える三影に風守は胸糞が悪くなった。風守の表情の変化を気にもとめず、三影は続ける。

「僕としては、けやきちゃんも成長してほしいなって思って。どーせ、全国大会でやりあうことになるわけですし。それに僕の実習期間中、彼女達がどれだけ強くなったか試したかったんですよ」

「ある意味、正しいな。ただ、俺にはあんたが生徒を自分の道具のようにしているように思えるんだが…」

「道具?そうですかね?僕は全国大会に向けて頑張る彼女達を応援したくて、各部員にあった育て方をしてレベルアップを図ったつもりなんですが…。部活を持ったら、部員が大会に出て実績を残させる。そうすることで、学校の株も上がるじゃないですか。僕にとっては、生徒とはそう言う存在なんですよ。だから、道具なんて思ってないですよ。ちゃんと人間として育てたいと思ってます」

「そうかい。だったら、お前の育て方に応えられなかった生徒はどうするんだ?」

風守の問いに手を口元に当て、少し考え込んでから三影は答えた。

「そういう生徒は、残念ながら一軍としては使わないですね。まあ、ちゃんと卒業できるように最低限のサポートはしていきますよ」

「大体分かった。やっぱり俺はお前が嫌いだよ」

風守の台詞に三影はキョトンとしている。

しばらくすると笑顔になって口を開いた。

「嫌い!?面と向かってそんなこと言われたことないからびっくりしちゃいましたよ!風守先生面白いなぁ」

「お褒めに預かり光栄だ。話を戻すぞ。俺には、お前がロープレゲーム感覚で教師やってるって思うんだが…。ゲームのキャラみたいにパーティメンバーを取っ替え引っ替えすることが、お前の言う教育なのかねぇ?」

「風守先生にはそう言うふうに思えるんですね。僕はそんなつもりないんだけどな。あ、もしかして風守先生は所謂『落ちこぼれ』って呼ばれてました?」

三影との議論に苛つきを覚えていた風守だが、ここまでくると何かが吹っ切れたらしい。

「落ちこぼれ?落ちこぼれなんて認識されてりゃいい方だ。それ以下だよ。カースト上位にずっと位置してきたお前にはわからんだろうがな」

「何すか?結局、風守先生の僻みじゃないですか〜。風守先生、メンヘラですね」

三影は、ハハハ…と呆れながら笑っている。

「確かにお前の言う通り俺の僻みだ。俺はお前みたいな人種に苦手意識があるからな。メンヘラで結構。お前の俺に対する認識なんてどうだって構わんが、お前の自己満足のために生徒を利用するんじゃねえよ。陰で人を弄びやがって。他人はお前の所有物じゃねえんだよ。例えお前のやり方で、生徒が成長したとしても、お前の手を離れた後はどうなるんだ?指導者がいなきゃ何もできないロボットが出来上がる可能性大じゃねえか。俺は生徒に魚を与えるんじゃない、魚の取り方を教えているつもりだ。だから、これ以上うちの部に干渉するな」

さすがの三影も苛ついた気持ちを隠せなくなってきた。

「部をほったらかしにしてたのによく言えますね、そんなこと」

「お前の叔父さんが余計な仕事やらせるからだろうが。でも、お前の言うことは正しいよ。お前を野放しにしたせいで取り返しのつかない事になるところだった。俺の教師人生最大の汚点だ。だから、これからはお前みたいな奴に好き勝手させないようあいつらに向き合おうと思ってる。お前には感謝してるよ」

「そうですか。言いたいことはそれだけですかね?では、僕からも先生に言わせてもらいましょう。風守先生は教師に向いてないと思いますけどね。僕に対しても失礼だし、もっと思いやりを持って人に接した方がいいですよ。感情に振り回されるなんて大人のすることじゃないです。僕は気持ちよくいい仕事をしたいだけなんで。他の皆さんもそうだと思いますよ。大体卑屈すぎますよ」

「生徒をゲームの駒みたいに扱うお前にだけは、思いやり云々を説教されたくねえな。それと俺の卑屈さはデフォルトだよ。身内に社会的地位を持った人間がいて容姿端麗なお前の人生はヌルゲーかもしれんがな、俺の人生はハードモードなんだ。おまけにクソゲーときてる。お前みたいに周りの人間に頼ってクリアできるほど甘くねえんだよ」

三影は風守との議論に嫌気が差してきたようで、うんざりというような顔をしている。

「全くもって意味不明ですね。先生〜、そんな考えで生きてて楽しいですか?今どき流行りませんよ?もっと自由に楽しく生きることを考えた方がいいと思いますけど?」

深いため息をつき三影がうんざりといった様子で答えた。

「まあ分からないだろうよ。俺もお前の事なんて理解する気がないし、俺もお前に理解してもらおうなんて思っちゃいない。お前にこんな話をしてるのも、これ以上俺の生徒に手を出させないためだからな。仕事抜きにして俺個人の考えを言わせてもらえば、お前が教師になろうが、どう生きようが関係ない。だがな、お前の自己満足とわがままに他人を巻き込むんじゃねえよ。それともあれか?お前は他人を利用しなきゃ自分の存在意義を証明できないってか?」

風守の言葉についに三影も怒りを露わにする。

「あんた、さっきから黙って聞いてりゃ何なんだよ?ただのヒラ教師で、この学園じゃ雑用しかやってないような奴が俺にお説教かよ?あんたの教師としての主義なんて知ったこっちゃないんだよ。俺に説教垂れるならもっと偉くなって権力持ってからやれよ」

「お前、俺が出世できないって分かってて言ってるだろ?」

「そりゃまあ、あんたみたいな人間、常識的に考えて無理でしょ」

三影が風守を嘲笑い見下す。対する風守は卑屈な笑みを浮かべながら語り出した。

「ざーんねんでした。これはお説教じゃありません。さっきも言った通り、俺はお前と理解し合うつもりなんてサラサラないの。つまり、これはただのお前に対する文句で実習生の指導係の風守として喋ってるんじゃないんだよ」

予想だにしない風守の返答に三影はついに激昂する。

「あんた、どんだけ失礼なんだよ!こんな仕打ち受けた事ないぞ!本当に碌でもない人間だな!」

「どうしようもない人間で申し訳ございません。じゃあ、最後に指導係として忠告してやる。お前もお前より立場が上の奴から利用されたり切り捨てられる可能性があるから精々気をつけるんだな。それと他人の期待や信頼を踏み躙って楽しいか?人の善意を無視すると一生苦しむぜ?」

忠告を最後まで聞く事なく、三影は思いっきり扉を閉めて部室を出ていった。

1人部室に残された風守は、けやきを囲み勝利を分かち合う部員を窓から見下ろしている。ついさっきとは違い穏やかな笑みを浮かべている事に風守は気づいていなかった。

「あぁ〜…気持ち悪い…頭痛い…帰りたい…」

悪夢との決着

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

スズナスズシロ

スズナスズシロ