SEASON3

STORY #5

#5 RACE

Special Race

  • 栗早家鷹
  • KACHIN

「で、どちら様?」

受付で見知らぬ女性にいきなり話しかけられた風守は、狐につままれた気持ちで女性の正体を探ろうとしていた。

どこかで見たことがあるような気もしていたが…。

「あ、失礼しましたー!私、静波まつりって言います!これでもプロのボートレーサーなんです~!」

元気よく自己紹介する女性『静波まつり』に風守は口を半開きにしてポカンとしている。

「あれ?どうしたんですか?」

まつりの問いかけにやっと正気を取り戻した風守は軽く咳払いをして話し始めた。

「いや、あんた、アイドルレーサーとかって言われて、この前のオールレディースで優勝した人だろ?なんでこんな所にいんの?」

「うわぁ…ヤバそうな人だなって思ったけど、本当にやばい人だったよ〜…ど〜しよう…。やっぱ、帰ろうかなぁ…」

「おい、聞こえてんぞ。あんた、思ったこと全部口に出すタイプだろ?」

「えぇー!私、全部しゃべってました!?す、すいませーん…許して~」

オーバーな身振り手振りを加えながら、最終的にまつりは手を合わせて謝罪する。

「いや、もう遅いから。何なら、よく言われるから慣れてるまである。結局、お宅のお願いって何なんですかね?」

風守は、上半身をパイプ椅子の背もたれに預け、本題を問いただす。

「そうそう!あの~勝負させてもらえませんか?」

「勝負って…うちの部とやるってのか?」

「はい!」

「やれやれ…」

満面の笑みで応えるまつりに辟易としつつ、風守は手続きを進めるためにスマホでふたばといこのを呼び出した。

**************

「皆さーん!よろしくお願いしまーす!静波まつりでーす!」

まつりはピットの待機所に入ると元気よく挨拶した。

「え!?本物!?」

「なんでここにいるのですかー?」

「静波まつり…本物だ…」

部員達は本物の静波まつりに大興奮で、はしゃぎまくっている。

「この前の地区大会のニュースで海月女子学園が2位になったの見て、近くに来たから寄っちゃったんだー。それでさっきのレース見て、勝負したくなっちゃって」

「えー!嬉しいー!やりましょう!やりましょう!」

憧れのプロレーサーが目の前にいることで部員のテンションも上がっていたが、そこに水を差すのは、いつも通り風守で…。

「盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、勝負もやれて一回だから。そんで、燃料も2艇分くらいしかないから、1人しか勝負できないからね」

「えぇ~!何とかしてくださいよ~」

「無理なもんは無理。そもそも、もう一試合ねじ込むのも大変だったんだからな」

「悪いな、こむぎ!文化祭実行委員がうるさくてさぁ」

「特別扱いはできないそうです」

1人をのぞいて、ふたばといこのは申し訳なさそうに現実を伝える。

「すいませーん!無茶なお願いして」

「いや、あんた、本気で言ってないだろ?」

「えへへ…」

「えへへ、じゃねえよ。で、誰とやるんですか?」

「そりゃもう、さっき1着を取ったこむぎさんです!」

「え?私ですか!?」

まつりの指名を受け、驚くこむぎ。

「そうと決まれば、早くやろー!」

まつりに促され、2人はレースの準備に取り掛かった。

**************

『ご来場の皆様、予定されていたレースは終了しましたが、ここでエキシビジョンマッチを実施するという情報が入りました!ご興味がある方は、このままお待ちくださーい!』

まつりとこむぎの特別レースを伝える放送が入り、徐々に席を立ち始めていた観客は席に戻り始めた。

暫くすると、レース開始を告げる放送が入る。

『さて、皆さん、これから行われるエキシビジョンマッチは、なんとプロのボートレーサーが参加いたします!そのレーサーとは、あの静波まつりさんでーす!対する海月女子学園は先程、初勝利を上げた平和島こむぎ!この勝負見逃せませんよー!』

観客席からは歓声が上がり、仮設モニターにはまつりの姿が映し出された。

予備のカポックとヘルメットを被り、落ち着いた様子でボートに乗り込む。

対するこむぎは、緊張でガチガチになっていた。

「こむぎー!気持ちはわかるがリラックスだ!」

緊張で強張ったこむぎにとあがエールを送る。

「そ、そだね。貴重な経験だから楽しむよー!ありがとう!とあちゃーん!」

ボートから手を振るこむぎ。

出走ランプが灯り、2人は勢いよくピットアウト。

こむぎが1コース、まつりが2コースに入る。

インコースに陣取った2艇は、ほぼ同時に動き出した。

スタートラインを先に越えたのはまつりで、さすがはプロだ。

しかし、その差は僅差だ。

「やっぱり、プロはすごい!」

驚きを隠せないこむぎ。

「へえ、高校生なのにいい勘してるなぁ」

まつりはこむぎを見やりながら、1マークに突っ込んでいく。

しかし、内側に位置するこむぎに邪魔をされ、外側に膨らんで1マークを旋回した。

1マークを旋回した2艇は、ほぼ並走して向正面の直線を疾走する。

2マークを旋回する2艇。

まつりがやや先行し、2周目に入る。

「やるじゃーん!こむぎちゃん!」

「まだまだー!」

こむぎは、直線で思いっきりアクセルレバーを握り、まつりに食らいつく。

2周目に入っても勝負はつかず、2艇は並走しながら向正面を走り抜けていく。

「いい勝負…。こむぎ、すごい」

「あっさり負けると思ったんだがな」

けやきの隣でSNS用の写真を撮りながら風守がつぶやく。

「もう少し部員を信じてもらえませんか?」

反対側で観戦していたいこのが、眉間に皺を寄せ、口を尖らせながら風守を見やった。

「いこの、この人、超ネガティブだから」

「俺は現実主義者なんだよ」

とあの発言に対し、撮影を続けながら反論する風守。

「あー!」

レースを見守っていたふたばが大声を上げた。

2周目2マークの旋回で、ついに勝負が決する事になる。

まつりが捲り、ついにこむぎの前に躍り出たのだ。

そのまま、引き波をこむぎにぶつける。

「きゃっ!」

「ごめんね、こむぎちゃん!私もプロの意地があるから!」

引き波にハマったこむぎの艇はスピードを落とし、3周目には1艇身ほどの差が開いてしまった。

この差を埋める事は至難の技で、そのままエキシビジョンマッチは幕を閉じた。

**************

「あーあ、やっぱりプロは強いな~…」

こむぎは肩を落としてピットに戻ってきた。

「こむぎちゃーん!楽しかったよ!ありがとう!」

ボートを格納庫に戻したまつりがこむぎに駆け寄る。

「まつりさん。やっぱり強いですね。私、全然敵いませんでした」

「いやいや、そんなことないよ!私、こむぎちゃんに負けないように必死だったんだから!」

「またまたぁ…。そんなわけないですよ。嘘ですよね?」

「嘘じゃないって!負けちゃうかと思ってヒヤヒヤしたよ。自分の力を信じて!」

「ほ、本当ですか?」

「ホント、ホント!」

そんなやりとりをしている2人の元に部員も集まってくる。

「静波さん、今日はありがとうございました」

「貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございます」

「こむぎー、よかったなぁ!」

「いいレースだった」

「こむぎさん、すごかったのです!」

まつりと部員達の言葉でこむぎにも笑顔が戻る。

「すごく楽しかったです!いつかまた勝負させてください!」

「そうだね!私もまた一緒に走りたいよ!全国大会もみんなで頑張ってね!」

「はい!ありがとうございました!私達も頑張ります!」

まつりとのエキシビジョンマッチは大好評のなか幕を閉じ、様々なことがあったボートレース部の文化祭も終焉を迎えたのだった。

Special Race

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

KACHIN

KACHIN

代表作

ライトノベル『異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。』
ゲーム『共闘ことばRPGコトダマン』『エバーテイル』
バーチャル仁愛生「夢野アイ」キャラクターデザインなど。