SEASON3
SEASON3
#3 RACE
文化祭を2週間後に控え、放課後は学園全体がソワソワした雰囲気に包まれている。暦の上ではもう秋だと言うのに、この星は秋という季節を忘れてしまったのではないかと思うほど蒸し暑い日が未だに続いている。
ボートレース部の提案はめでたく通り、風守を始めとした“お荷物集団”の交渉で鈴ヶ森財閥の資金援助の件も理事長に認められた。
しかし、万事うまくいくとは限らないのが世の常だ。
「あー!あと2週間しかないー!間に合わないよー!」
「…ヘルメットとカウルに付けるパーソナルマークもまだできてない…」
文化祭のレースは、ボートや装備品を特別仕様にしようということになり、部員がそれぞれパーソナルマークを作成し、自分の艇やヘルメットに装飾を施すことになったのだ。
「すみません…私、絵が苦手で…」
いこのが申し訳なさそうにとあに話しかけた。
パーソナルマークの作成はとあが一任されている。
「いこのが謝ることはない。作業が遅れてるのはパーソナルマークだけじゃない。ふたばといこのは、財閥とのタイアップ活動を手伝っているし、現実問題として人手が足りないんだ。今だってふたばは部の代表として実行委員会につきっきりだし気にしなくていい。それに風守先生は……えっと…何してるんだ?」
「先生は、ぷ…何ちゃらチームで忙しいらしいのです」
「何それ?」
「プロジェクトチームですよ。ナツさん」
「学園のプロモーション活動をする集まりみたい…」
作業の手を止めずにけやきが答える。
「プロジェクトチームか。一応、仕事はしてるんだな。あの人」
「一応きちんとやってるみたいですよ。タイアップの件も風守先生のチームが交渉してくれてOKが出たみたいです」
満足げな笑みを浮かべるいこの。
「どーせ、またグレーなことして無理矢理通したんじゃなんですか〜?」
こむぎが、冗談まじりに茶化す。
「まあ、阿漕な人ですから、ふふふ」
「色々やってくれているのは判るが、時間が足りないな…。もうすぐ下校時刻だ」
「そうだよね〜。もう帰らないと、また松原先生がうるさいよ」
ボートレース部の案を通す交渉材料として鈴ヶ森財閥とのタイアップ案を提示したのは良いものの、その代償として大幅に作業量は増えていた。
10日後に迫った文化祭に放課後、急ピッチで作業を進めるボートレース部の面々ではあったが、膨大な作業量に次第に追い詰められていた。
「おー、やっとるな」
部室の扉が開くとくたびれた表情で風守とふたばが入室してきた。
「んにゃあ…疲れたぁ…」
「お疲れ様なのです!ふたば先輩!」
「ナツ〜、あたしは疲れたぞ〜」
「ふたば先輩!毎日お疲れ様です!」
「ふたばさん、連日実行委員会との打ち合わせありがとうございます!」
「んにゃ〜…慣れないことをすると本当に疲れるな〜…」
口々にふたばを労う部員たち。
「おい、少しは俺にも労いの言葉をかけろよ」
「ふたば先輩、お疲れ様です。…あ、あと風守先生も」
けやきがジトッとした目つきで風守を見やる。
「おい、あえて“ついで感”出すんじゃねえよ。トラウマスイッチ入っちゃうだろうが」
「どんだけトラウマ抱えてんの?先生…」
顔を引き攣らせるこむぎ。
そんなやりとりにとあが介入する。
「風守先生、文化祭の準備がかなり押しています。このままじゃ間に合いません」
「ん?あ〜そうだな。俺はその件で、ここに来たんだ」
「どういう事ですか?」
怪訝な顔で返答を促すとあ。
「そういうと思って、下校時間後も作業ができるように実行委員会に交渉してきた」
「え?」
風守に抗議をしようと身構えていたとあは、意表を突かれ困惑気味だ。
「とりあえず、文化祭まで下校時間を過ぎても作業をさせてもらえるようになったから」
「本当ですか!?」
思い詰めていたとあの表情が、ぱあっと明るくなった。
「お前、その社畜体質直さないと将来苦労するよ?」
辟易とした表情を浮かべる風守。
「どういう事ですか?」
「組織ってのは、出来るやつを使い倒して、使い潰すのが世の常だ。逃げるが勝ちって時もあるんだよ」
どこか遠い目をしながら風守が答えた。
「まーた、先生の話だった…」
辟易とした表情はこむぎに伝染し、部員は呆れ返っている。
「ま…まあ、先生のご忠告は肝に銘じるとして、話を本題に戻しましょう」
いこのが、苦笑いをしながら明後日の方向に向かった話のベクトルを軌道修正した。
「手厳しいこって…。結論から言うと、今日から20時まで作業時間を延長できることになった。手続きは俺の方でしておく。時間になったら俺が来るから、頑張れや」
「やったー!頑張ろ!とあちゃん!」
「そうだな!これなら何とか間に合うかもしれない」
「よーし!じゃあ、残業に備えて何か買ってこよーぜ!」
先ほどまでふたばの顔面にへばりついていた『疲労』と言う文字が見る影もなく剥がれ落ちた。
「おいおい、遊びじゃないんだぞ」
「まあまあ、先生にも差し入れしますから」
「よーし!じゃあ、買い出しに行こー!とあ〜行くぞー!」
ふたばが意気揚々と声をかける。
「私は、作業があるから、みんなで行ってきてくれ。あ、出来れば抹茶アイスを頼む」
「おけー、みんな行こーぜー」
とあ以外の部員は休憩がてら買い出しに出る。
「大森、気をつけろよ。何かあったら職員室に来い」
「?」
風守の発言の意図が分からず、とあは首を傾げる。
意味深な発言を残し、風守は職員室に戻っていった。
部室には、とあだけが残され、窓の外は既に夕闇に包まれていた。
**************
ボートレース部の部室は、旧校舎を改良した部室棟にある。
旧校舎は、新校舎との間に中庭を挟み、渡り廊下で結ばれている。
その中でもボートレース部の部室は、水面に一番近い旧校舎の最果てに位置しており、下校時刻が近くなると付近に人気はなくなる。
また、旧校舎は古い建物であるため、夜になると照明をつけていても廊下は薄暗かった。
下校時刻を過ぎてからの準備作業が認められたとはいえ、クラスの出し物の準備は基本的には新校舎で行われており、ボートレース部の部室が位置している場所には遠巻きに準備に追われる生徒の声が聞こえてくるだけだ。
「ふう…やっと一つできた…」
とあは、部室の長机に向かい、パソコンのペンタブで各部員のパーソナルマークを描いていた。
時刻は18時30分すぎ。買い出しに向かった面々は、まだ帰ってこない。
「ふたば達、遅いな」
そう呟くと、とあのお腹がぐ〜っと鳴る。
とあは、この場に誰もいなかったことに感謝しつつ、次第に増していく空腹感にその意識の大半を奪われ始めていた。
「早く帰ってこないかな…」
そう呟くと、部室の窓から戻ってくるであろう部員達の姿を探す。
完全に日没を迎え、外の様子を窺い知るには渡り廊下や新校舎から漏れ出た灯りや校庭に備え付けられた照明の光を頼りにするしかなくなっていた。
ぼんやりと外を眺めていると部室の蛍光灯の灯りが突然チカチカと不規則に点滅し始めた。
「!」
とあは慌てて部室の入り口に向かい、壁の埋め込みスイッチを押す。
しかし、照明の点滅は止まらない。
「ど…どうなってるんだ!?」
不可解な現象に頭の整理が追いつかない。
しばらくすると、蛍光灯の点滅は終わりを告げ、蛍光灯はいつものように煌々と光っている。
ほっと胸を撫で下ろした矢先、スクリーンセーバーが起動していたパソコンの画面が真っ暗になっていた。
設定していた時間が過ぎたのかと思いマウスを動かしてみるが、パソコンの画面は真っ暗なままだ。
「た、頼む…動いてくれ」
一縷の望みをかけ、パソコンの電源スイッチを押すが反応はない。
「…うぅぅ…」
しばらくするとパソコンのモニターが復帰し、文書作成ソフトが勝手に起動する。
突然の出来事に頭が真っ白になるとあ。
すると、起動したソフトに文字が打ち込まれていく。
その文字は『気づいて』。
「◯✖️△※〜!」
恐怖のあまりパソコンのスイッチを連打するが、パソコンの画面が元に戻ることはない。
「あわわわわわ…頼む!動いてくれー!」
恐怖が頂点に達しようとした時、部室の扉が開いた。
「ひゃっ!」
「とあー、戻ったぞ〜。…ん?だいじょぶかぁ?」
買い出しから戻ったふたばの声が響き渡る。
「みっみんな!やっと戻ってきたか!」
「とあちゃん、どうしたの?なんか変だよ?」
「そっそんなことはない!何もない!あるはずない!」
狼狽するとあ。
「とあさん、どうなさったんですか?」
「顔色が悪い」
けやきといこのが心配する。
「な…何でもない。少し疲れたのかもな!hahaha!」
とあは、強ばった笑顔でその場を取り繕った。
「あ!とあちゃん、さすがー!ちゃんとマークできてるじゃん!」
こむぎがパソコンの画面を覗き込むと、先ほどまでうんともすんとも言わなかったパソコンが元の状態に戻っていた。
「え!?…そ、そうか…よかった」
とあの反応にこむぎは首を傾げる。
「そうだ!私、お腹すいたんだ!早く何か食べさせてくれ」
とあは、無理矢理話題を捻じ曲げ、ここで起きた現象から気を逸らすことにした。
この時、5人はとあの様子を不審に思いながらも普段とは異なる雰囲気に陶酔しており、すぐにこのやりとりは忘れ去られてしまった。
この後、怪奇現象が続くとも知らずに…。
**************
ボートレース部は連日文化祭の準備に追われ、今日も下校時刻が近づいてきた。
「この調子で頑張れば、何とか間に合いそうなのです!」
ここ何日かの作業のおかげで、準備も整ってきた。
この調子でいけば、何とか間に合いそうだ。
しかし、準備が順調に進み始めた代償として、部室では様々な現象が起きていた。
「あのさ、下校時刻が近くなると、部室で変なことない?」
「そういえば、そうですね…」
「え?いこの先輩、何かあったんですか?」
「私達が、ピットに行っている時、つけていたはずの蛍光灯が消えていたり…」
「気のせいじゃないのですか?」
「そうかもしれませんが…。こむぎさんは、何かあったんですか?」
「私は、パソコン使っていたら急に電源が落ちたり…勝手に出鱈目な文字が打ち込まれたり…」
「え?それってガチなやつじゃん!」
スナック菓子を頬張りながら作業を進めていたふたばが、目を輝かせながら口を挟んだ。
「もう!いい加減にしてくれ!」
怪談話に盛り上がっていると、とあが大声をあげた。
「うわっ!な、何だよ!?とあ」
驚愕するふたばに畳みかけるようにとあが続ける。
「怪奇現象とか幽霊とか、そんな非科学的な話をしている場合じゃないだろ?文化祭の準備だって目処は立ってきたが、終わっているわけじゃないんだぞ」
「そ、そうですね…。皆さん、がんばりましょう」
とあに気圧されて、いこのがその場を取り成した。
「わ、私はパーソナルマークのカウルへの取り付け位置を確認してくる!」
そう言うと、とあは部室を出て行ってしまった。
「どうしたんだ?とあの奴…」
「あ〜…とあちゃん、まだこう言う話だめなのかな」
「とあ先輩、こう言う話ダメだったのですか?」
「うん、凪沙島のお祭りで小学生が参加する肝試し大会があったんだけど、島を出るまで一回も参加したことないんだよ」
「…苦手なものは簡単に克服できるものじゃない」
これまで、口を噤んで黙々と作業を続けていたけやきが呟く。
「言われてみれば、教室でも友達とこう言う話になるとサーッといなくなってたな」
「で、ふたば先輩達は、何か変わったことなかったんですか?」
こむぎが、2人に問う。
「あたしは基本、文化祭実行委員と会議室に缶詰だったからな〜」
「ふたば先輩の場合、何かあっても気づきそうもないのです」
ナツがニヤニヤしながら茶化した。
「にゃにぉう!失礼な!そういうナツはどうなんだよ?」
「私はそう言う話を信じてないのです。まあ、たまにスマホの電源が急に落ちたりしましたが、関係ないのです。たまたまなのです!」
「ナッちゃんまで…」
「だ…だから、関係ないのです!たまたまなのです!」
虚勢を張っているのかナツの声が大きくなる。
「なんだかんだで、ナツも怖いんじゃないのかぁ?」
「そっ…そんなことないのです!怖くなんかないのです!」
ふたばとナツの言い合いをよそに、こむぎがけやきにも確認をとる。
「けやきちゃんは?」
「私は…廊下で見たことない生徒を見た。それと、下校時刻が過ぎたあと、トイレに行こうとしたら後ろから肩を掴まれた。あとは…」
淡々と自らの体験を語り出すけやきに全員の血の気が引いていく。
「け…けやき…さん?な…なんで、そんなに冷静なんですか?」
「私、結構見える人だから…。慣れてる」
「ひいぃぃぃぃ〜」
部室に全員の悲鳴が響き渡った。
**************
「で、雁首揃えてどうしたの?」
ボートレース部の面々は、全員揃って風守を呼び出しにきたのだ。
「先生!何とかしてください!」
こむぎが、風守に抗議する。
「だから、何を?」
「下校時間が過ぎると部室棟で色々なことが起こるんです」
いこのが冷静に答える。
とあは5人の後ろに控え、ソワソワしている。
「色んなことねぇ…。まあ、ここじゃ何だ。部室に行って話そうや」
「なっ!何で部室で話す必要があるんですか!?」
5人の後ろからとあが大声をあげると職員室中の視線が集まった。
「…す、すみません…」
とあは赤面しながらペコリと頭を下げ謝罪する。
「ね、部室の方がいいでしょ?」
風守の提案で部室に集まったメンバーは、これまでにあったことを風守に報告する。
その間、とあはずっと着席しながら下を向いて黙りこくっていた。
「ほーん…。お前らの話が真実だとすると、本当に色んなことがあるのね、ここ」
「そうそう!そうらしんだよ、先生!で、あたし実行委員会で3年生に話聞いてみたんだけどさ、部室棟って幽霊の噂あるんだよ!」
「なっ!ふたば!実行委員会に出ていて何やってるんだ!?それでなかなか戻らなかったんだな!」
「にゃはは〜…」
「まあまあ、大森、とりあえず聞いてみましょ」
風守がとあを宥め、ふたばに話の続きを促す。
とあは、不満そうに口を尖らせた。
「じゃ、いくぞー。聞いた話によると、まだこの部室棟が校舎として使われていた頃に遡る…」
ふたばは、怪談師を気取りながら話し始めた…。
ふたばによると、その昔、文化祭を非常に楽しみにしていた生徒がおり、当時も下校時刻を延長して文化祭の準備を行っていたそうだ。
その生徒は、文化祭が数日後に迫ったある日、事故に遭って亡くなったという。
それからと言うもの、通常の下校時間が過ぎると長い髪の女子生徒の霊が廊下に現れたり、こむぎ達が体験した怪奇現象が多発するようになったということだった。
「へぇ〜…じゃ、俺が見たのもそれかな…」
ふたばの話を聞き終えると、ボソッと風守が呟いた。
「先生も何か体験されたんですか!?」
いこのが問う。
「ん〜、まあね…。お前らが帰った後、見回りしてたら髪の長い女子生徒に腕を掴まれたんだな。大森が残ってたのかと思って声を掛けようとしたら携帯が鳴って少し目を離した隙に消えちまった。そもそも大森が俺の腕なんか掴むわけないし、やっぱそう言うことか」
「先生!そんな!話を合わせる事ないじゃないですか!それに、あなたは理科教師ですよね!?科学者がそんな非科学的なことを信じるんですか!?」
とあが狼狽しながら責め立てる。
「俺は専門が進化生物学なんでね。進化ってのは偶然の産物だって俺の授業で教えただろ?これまで常識と思われていたことが、ひっくり返る学問なんだよ。だから、俺は教科書や常識とされている学説を鵜呑みにしない主義なんだ」
「だ、だからって、今回の件とは関係ないじゃないですか!」
「お前が科学者だ、なんだって言ったんじゃん」
「うぅ…そ、それは…。でも、先生が何か見たんなら、何で私達に教えてくれなかったんですか!?」
論点をずらすとあ。
「怖がらせちゃ悪いと思ってさ。基本、下校時刻過ぎなきゃ何もないし。それに俺って信用ないじゃん?話してもお前ら信じないじゃん?…しかし、京浜の話を聞く限り、ここに出るのは地縛霊の類だな。決まった時間に決まった場所に現れる」
風守は、ニヤリと笑いながら、勝手に分析を始めた。
「分類なんていいから、早く何とかして欲しいのです!
「先生、幽霊も詳しいの?」
「フッ、地◯先生と呼べ。いいか、他にも浮遊霊、動物霊など色々な種類があってだな…。ん?大森、お前の後ろに…」
冗談でとあを脅かそうとする風守にとあの鉄拳が飛ぶ。
飛ばせ!鉄拳!ロケッ◯パンチ!
鳩尾に必殺パンチを喰らった風守は唸りながら床に突っ伏した。
「イヤー!!もう止めてください!やめて、やめて!イヤー!私、こういう話ダメなんです!怖い、怖い!もうやめてー!」
耳を塞ぎしゃがみ込むとあに唖然とする5人。
「とあ先輩、無理してたんだね…」
けやきはいつも通り冷静だ。
「ここまで怖がるなんて意外なのです」
とあと同様、怖がっていたナツも平静を取り戻す。
「か、かわいい…」
「え?」
頬を赤らめながら呟くいこのに全員の視線が集まった。
**************
その後、とあの体験を聞き出したボートレース部の面々は、少女の霊が文化祭に参加できなかった事を悔いており、自分の存在に気づいて欲しがっているのだろうという結論に至った。
「はい、とあちゃん」
こむぎがとあに促す。
こむぎが手渡すのは、お菓子や水の入ったコップだ。
「し…しかし…。何で私なんだ?」
とあは、お供物を受け取りつつ、声を震わせながら質問した。
「いや、だって、具体的にメッセージ受け取ってるのお前じゃん。『気づいて』って言われたんだろ?だったら、お前がやるのが礼儀ってもんだろう」
「先生やけやきだって、腕を掴まれたって言ってたじゃないですか!?」
「ここにいる子は、とあ先輩に背格好が似てた…。たぶん、自分に似ている人だったから、具体的な言葉で伝えて来たんだと思う…。私達に何か言葉を伝えてくることはなかった…」
「だとさ。お前さんがやるのが一番いいんだよ」
2人の説得に渋々ながら応じたとあは、震える手で部室の窓際の片隅にお供物を置いた。
「それにしても、風守先生。先生は生身の人間には相手にされないのに、幽霊には頼られるんですね」
お供物を置いたとあは、風守の方を振り返ると笑みを浮かべながら反撃を加えた。
「おい、前にも言った気がするけどな、人間、本当の事を言われると大概傷付くんだよ。俺の心の傷を抉ってトラウマを増やすの止めてくんない?」
「とあちゃん、風守先生は“お荷物集団”…じゃない!プロジェクトチームで頑張ってくれてるよ!だから、一応、生身の人間にも頼られてるよ!」
「おい、フォローになってねえよ…。お前、わざとだろ?」
いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、こむぎはしらばっくれる。
「これで納得してくれるといいんですけど…」
「ま、だいじょぶじゃないか?」
「きっと、私たちの事を見守ってくれるのです!」
「今まで、無視して悪かった…。安らかに眠ってくれ」
そういって、とあが手を合わせると、その場にいた全員が手を合わせ黙祷した。
それからというもの、部室での怪奇現象はぴたりと止んだという。
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