SEASON3

STORY #2

#2 RACE

始動!文化祭

  • 栗早家鷹
  • スズナスズシロ

「これだぁー!」

放課後の部室にふたばの声が響き渡る。

「わっ!急に大きな声出さないでくださいよ!」

「文化祭の出し物が、まだ決まってないんだ。少し静かにしてくれふたば」

とあがふたばを嗜めるとふたばは、意に介さずすぐに続けた。

「にゃははー、だぁかぁらぁ!その出し物を思いついたんだよ!」

「本当なのですか!?」

「ふたばさん、どんな出し物ですか?」

これまで難航していた文化祭の出し物決めに疲れ始めていたナツといこのは安堵の表情を浮かべる。

「ふふん…。聞きたいかぁ?」

ふたばはニヤリと笑いながら勿体ぶった。

「ふたば先輩、早く教えて…」

「にゃは!けやきがそこまで言うなら教えてやろう。我がボートレース部がやるのは……本物のボートレースです!」

「はぁ?」

ふたばの提案に5人は首を傾げた。

**************

「だーめだ」

珍しく職員室の自席にいた風守に6人は出し物の中身を話し、即却下を食らっていた。

「何でだよぉ!せんせー」

ふたばが前のめりになりながら風守に詰め寄る。

「うげっ!…顔が近い!」

風守は忌々しげにふたばの顔を掴んで遠ざけた。

「何でって、そりゃ問題あるからに決まってるだろ」

「どこが問題なんだよ!」

「ほとんど全部」

「キぃぃ!何でだよ!」

地団駄を踏むふたばに呆れながら、はぁと溜息をつくと風守はだらだら説明を始めた。

「いいか?お前らは未成年だろ?ボートレースってのは大人がする遊びなんだ。ギャンブルなんだ。それを学園が許可するわけないだろうが。それにウチは一応、進学校だし、私学なんだぞ。学園のイメージ云々にうるさい偉い先生方がやらせてくれるわけがない」

「先生だって、うちが出し物やらなきゃ困るだろ!?協力してくれよぉ!」

「だーめだ。仮にやるとしても予算はどうするんだ?各部活動に与えられた予算なんてたかが知れてるぞ?お前らのプランは、めちゃくちゃ金がかかるんだ。学園や保護者への説明だって大変なんだ。それを誰がやるんだ?俺だぞ、俺!ただでさえワケの分からないプロジェクトチームに入れられて仕事を押し付けられてるんだ。これ以上、俺の仕事を増やすんじゃないの!めんどくさい」

「何だよ!結局、先生がめんどくさいからじゃん!」

「先生!ボートの魅力をみんなに伝えたいんだよ!協力してよぉ!」

「先生、何とかなりませんか?」

「意地悪…」

「やっぱり性格悪いのです」

ふたばと風守のやり取りを見守っていたこむぎ達が次々に支援射撃を加える。が、効果は今ひとつのようだ。

「とにかく、プランは練り直せ。俺はこれからめんどくさーいお仕事が山ほどあるんだ。さ、早く帰った、帰った。まだ出し物の決定までは時間があるし、改めて現実的なプランを持ってこい。…そうだ!俺、たこ焼き食いたいんだよ。現実的なプランに出来ないなら、たこ焼き屋にしろよ!俺の昼飯代も浮くしな。ははは」

「ぐぬぬぬぬ…あーもう!だったら文化祭実行委員会に直談判だ!」

「お、おい!ちょっと待て!ぐわっ!」

ふたばは、風守の胸ぐらを掴むと職員室を飛び出していく。

「ふたばさん!」

いこのの静止も虚しくふたばは風守を引きずって文化祭実行委員会が準備を進めている会議室へとダッシュした。

**************

「頼もーう!」

勢いよく会議室の戸を開けるふたば。

文化祭実行委員の生徒達の視線が集まる。

「文化祭実行委員長は誰だー?」

「わ、私ですが?」

文化祭実行委員長の生徒が挙手する。

ふたばは、ズカズカと委員長の前に進むとボートレース部の出し物について捲し立てるように説明を始めた。

「やれやれ…」

風守は胸ぐらを掴まれたまま呆れ顔で説明が終わるのを待っていた。

「と言うわけで、私達は本物のボートレースをやる!」

ふたばの剣幕に怯えながらも話を聞いていた委員長は、実行委員会を取り仕切っている教員に許可を求める。

その視線の先には元ウィンドサーフィン部顧問の松原がいた。

ウィンドサーフィン部は、部活検討委員会でこの夏に廃部が決まった部活動の一つだ。自分の部が廃部になった松原はボートレース部に対し良い印象は持っていない。

そんな松原が下した采配はもちろん…。

「却下!」

「ですよね…」

風守は、ふたばに胸ぐらを掴まれたまま先ほどと同様の表情で答えた。

「当たり前です!高校生がギャンブルをするなんて!」

「ですよね…」

風守の返答は尚も変わらない。

「だいたい、風守先生!こんなことは顧問のあなたに話があった段階で、生徒に説明して辞めさせてくださいよ!まったく!顧問が顧問なら部員も部員だな」

「なっなんだとぉ!それとこれとは関係ないだろ!」

松原の発言にふたばのボルテージは上がっていく。

「それ見たことか、ボートレース部の連中は口の利き方もなってない。とにかくダメだ。もっと現実的な提案をしなさい」

「せっかくならボートレース部らしい活動したいんだよ!だいたい文化祭に出展しろって言ったのは学園の方で…」

「京浜、その辺にしておけ!」

さっきまで呆けていた風守がふたばの言葉を遮った。

「いやぁ、松原先生、大変失礼しました。プランは練り直しますので、今回はこの辺で勘弁してください。では」

「そうしてください!我々は忙しいんです!」

そう言うと風守はふたばの引きずって会議室の出口に向かう。

「なっ!ここまで言われて引き下がってられないだろ!離せ!風守!バカ!アホ!」

やんやん騒ぐふたばの制服の襟を掴み風守は会議室を後にした。

**************

「あー!もう放せよ!」

会議室を後にし廊下に出た風守は、会議室に戻ろうとするふたばの制服の襟から手を放す。

急に手を放されたふたばは、前のめりに倒れ込んだ。

「いってぇ!急に放すなよ!先生!」

「放せと言ったり、放すなと言ったり忙しいやっちゃな、お前は」

起き上がったふたばは、その場で胡座を組んで風守を捲し立てる。

「なんであんな所で引き下がるんだよ!私はまだ言いたい事があったんだ!全然交渉できなかったじゃないか!」

「お前な、あれを交渉とは言わんぞ。辞書引け、辞書」

「うるさいな!今年度はボートレース部の存続が決まったけど、この先どうなるかわからないだろ!?私はこれからもボートレース部に残っていて欲しいんだ」

「お前、ずっとこの学園にいるつもりか?」

「違う!もっと学園のみんなにボートレースの楽しさを知って欲しいんだ!部に興味を持ってもらって、こむぎ達の仲間を増やしてやりたい」

半べそになりながら風守に訴えるふたば。

ふたばの目線に合わせるように風守はしゃがみこむ。

「やれやれ…。いいか?俺はプランを練り直せと言ったはずだぞ。そして松原にもプランを練り直すと言って出てきたんだ。人の話をよく聞けよ」

「どう言うこと?」

「頭は生きてるうちに使うんだよ。死んだら使えんだろうが」

「だから!どう言う事だって言ってんの!」

「プランの本筋は変更せず、練り直しゃ良いんだよ」

「はぁ?意味わかんなーい!」

「いいから部室に全員集めろ」

「て言うか、何で急にやる気になってんだよ?」

「俺は松原が大っ嫌いなんだよ。覚えておけ」

**************

「で、どうすんのさ?」

「それをこれから考えんの」

「何だよ〜結局、何の考えもないんじゃないか〜…」

部室に6人を集めたものの本当のボートレースとやらを実施する案は浮かばないままだ。

「…私達の提案を即却下したのに、どう言う風の吹き回し?」

けやきが風守に疑いの目を向ける。

「この人は松原先生が嫌いなんだとさ」

「ばっか!お前、本当の事言うんじゃねえよ!」

「呆れた…先生の個人的な恨みで、私達の提案を通そうとしてるんですか?」

とあが冷たい目を向ける。

「何か、先生に利用されてる気がして嫌だな〜」

こむぎが不満を口にする。

「まあ、そう言うなよ平和島。せっかく俺が可愛い生徒のために頑張ろうって気になったんだから」

「動機が不純なのです…」

「でも、確かに利害は一致してます。プランの練り直しをすれば、私達の提案が通る可能性があるって事ですよね?先生?」

いこのが真剣な顔で問う。

「まあ、そう言うことだ。あいつはプランを練り直せとしか言ってない」

「では、私達の提案と学園側の意向を考慮した最大公約数的な出し物にすれば良いと言う事ですね」

「難しい言葉使って話すなよ、いこの!」

「つまり、みんなで幸せになりましょうって事です」

「んにゃ?」

「そうそう、みんなで幸せになろうよ〜。今回の提案が通れば、お前達は思いっきり文化祭を楽しめるし、俺は松原に煮湯を飲ますことができる。まさに一石二鳥」

「うぅ…確かに文化祭は楽しみたいし、私も松原は、あんまり好きじゃないし……そうだな!先生の言うとおりだな!珍しく…と言うか、初めて意見が一致したな!」

「そうだろ、そうだろ、へへへ」

ふたばと風守が不敵な笑みを浮かべ、意気投合しているととあが現実に引き戻す。

「それはそうと具体的にどうするんだ?生徒に賭け事はさせられない以上、前途多難だぞ」

「そうだよね〜、学園の意向も踏まえながらって難しいよね」

「学園側にもメリットがないと私達がプランを練り直しても通らない気がするのです」

「うーん…。あ!そうだ!いこの、夏合宿の時みたいに頼めないか!?」

「夏合宿?」

「そう!夏合宿だ!いこの耳貸せ」

何やら耳打ちするふたば。

「なるほど…ふたばさん、考えましたね。お父様に掛け合ってみましょう」

ふたば、いこの、風守がニヤリと笑った。

「いこの、何かキャラ変わった…」

**************

翌日。

「頼もーう!」

会議室の戸が思いっきり開いた。

「あ!またボートレース部か!昨日の件は却下したでしょうが!」

「プランを練り直してきましたー!」

ふたばが松原の言葉に被せるように叫んだ。

「そう言うことですので、お話聞いていただけませんか?」

今回はいこのも一緒だ。

「風守先生、どう言うことです?」

いこのに白衣の袖を掴まれ、会議室の戸から半身を入室させられた風守に松原が問う。

「いやぁ、どうもこうもこいつらが言ったとおりです。詳しい話は、こいつらが話しますんで」

「あなた、それでも顧問ですか!?」

「ええ…まあ。だからこうしてついてきてるんですがね。そもそも俺の話なんて聞きたくないでしょ?先生?」

「くっ!相変わらず口の減らない人だ」

「先生!いいから早くお話しさせてください!」

「おお〜こわっ!ウチの部長がお冠なんで、お話してよろしいですか?こいつ、怒らせると怖いんですよ」

「まったく、部員のコントロールもできないなんて…」

「自分の部が廃部になった奴がよく言うぜ…」

「何か!?」

「いえ!何でも」

あはは…と笑って誤魔化しながら風守は、ふたばといこのを会議室の奥へと進ませる。

「では、ふたばさん、よろしくお願いします」

「おう!任せろ!」

松原の机の前に3人が並ぶとふたばがメモを取り出し説明を始めた。

「昨日、ご提案させていただいた案ですが、学園と私達生徒がWIN WINな関係になれる案を考えてきたぞ…あ、いや、きました!」

「はいはい、で、それは何なの?」

「私達の提案した生徒を観客としたボートレースですが、やはり金銭が絡むのは良くないですよね?だから、お金じゃなくて、1着を当てた人に景品をあげる形で実施させてもらえないか…じゃない!いただけませんか?」

「…まあ、確かにそれなら金銭が絡むことはないしギャンブル要素は薄くなったが、予算はどうするの?」

「そこで、ここにいるいこのの出番!いこののお家が今回の文化祭を援助してくれるって言ってるんです!」

「どう言うことだ?」

「父は、父の会社の事業とタイアップすることを条件に文化祭の資金的援助を行いたいと申しております」

「そうそう!いこののお父さんの鈴ヶ森財閥は、色んな事業を手がけてるから、文化祭の広報活動から運営まで手伝ってくれるって言ってるんだ!いいでしょ!?松原先生!」

「う、うむ。確かに、それは学園の利益になるが、私の一存で決めるわけには…。理事長への説明もあるし…」

口ごもる松原を前に怠そうに欠伸をしながら風守が口を開いた。

「ふぁ〜あ…それは、お宅で考えなくてもいいんじゃないですか?先生が俺を推薦してくださったプロジェクトチームとやらがあるじゃないですか」

「何ですか?それ?」

聞き慣れない言葉にいこのが質問で返した。

「何だか得体の知れない組織ができたんだよ。学園の入学者確保の為に広報活動とイメージアッププロモーションを行う部署がな。で、俺は松原先生をはじめ、伊坂先生達のご推薦でそのチームに組み込まれたわけ」

「ああ、そうでしたね!では、学園の首脳部への説明はプロジェクトチームにお任せします!」

「現金なやつ…」

「何か?」

松原が風守を睨みつける。

「い〜や、何も」

「では、ボートレース部の出展申請書を期限までに出すように」

軽く咳払いをした松原は、ふたばに申請書を手渡した。

「ありがとうございます!」

ふたばは申請書を掴むが、松原は手を離そうとしない。

「な…何だよ?」

「プロジェクトチームが理事長の説得を失敗したら、この提案は却下されることになるから、それだけは理解しておくんだよ」

ふたばは申請書を掴むが、松原は手を離そうとしない。

「はいはい!わかってるって!」

「風守先生、責任重大ですね!頑張ってくださいよー!上手くいけば我が校のPRにもなるんですから。私も陰ながら応援してますよ」

「へいへい」

一頻り嫌味を言って高笑いをする松原を尻目に3人は会議室を退出した。

**************

「何なんだよ!あいつ!散々ケチつけやがって!」

部室に向かう廊下でふたばは、ぷりぷり怒り続けていた。

そんなふたばを宥めながら、いこのが風守に話をふる。

「でも、先生、プロジェクトチームに組み込まれるなんてすごいじゃないですか!私、少し見直しました」

「あ、そうそう!先生、意外ときちんと仕事してんだなぁ」

2人の見立てに風守は忌々しげに答えた。

「バーカ。逆だよ逆」

「どう言うことなのさ?」

腑に落ちない様子のふたば。

「俺が組み込まれたプロジェクトチームってのは、学園の鼻つまみモノの集まりなんだよ。メンバーは、俺も含めて生徒からの人気もなく出世もしてない教員ばかりだし、学園からは人格に問題ありとレッテルを貼られた人間だ。その証拠に伊坂先生がリーダーをやってる本命のチームがある。ま、俺達は刺身に添えられたタンポポみたいなもんだな」

「うげ〜…聞きたくなかった…」

「ま、そう言うことだから、俺達は何も期待されてない。まさに学園のお荷物、盲腸、金食い虫!…そう思われてるってことだ」

「それなら好都合です!」

「何でだ?」

ふたばが不思議そうな顔をしていこのを覗き込む。

「だって、期待されてないってことは、注目されてないってことです。注目されなければ、多少の無茶は利きますから」

「お前、どんだけポジティブなんだよ…。さすがの俺も引くぞ…」

「うふふ…。私、パワーアップしたって言いましたよ?」

「力つけ過ぎなんじゃないの?ま、俺の考えも同じだ。つーわけで京浜、ウチの部の出し物についての仕切りはお前に任せた。俺は、仕事があるからあとは頼んだぞ」

「おう!タンポポの底力見せてやるぞー!」

こうしてボートレース部の文化祭は動き出したのでだった。

始動!文化祭

STORY

小説家

栗早家鷹

代表作

???

ILLUSTRATION

イラストレーター

スズナスズシロ

スズナスズシロ